Netflixドラマ『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』「ピックマンのモデル」ネタバレ感想

Netflixドラマ『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』「ピックマンのモデル」アイキャッチ
この記事は約19分で読めます。

Netflix独占配信の『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』「ピックマンのモデル」は、美大の新入生として現れた80代の男ピックマンの描く絵にまつわる物語です。

ミヅチ
ミヅチ

すぐ下にあるYouTubeでの予告編のキービジュアルになっているものが、この作品のものです。

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Netflixドラマ『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』「ピックマンのモデル」情報

日本公開日2022年10月25日
制作国アメリカ
ジャンルホラー
注意書きR-16+
暴力、ヌード、言葉づかい、薬物
上映時間1時間3分

『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』「ピックマンのモデル」主なキャスト・スタッフ

キャスト

ウィリアム・サーバー
受賞経験のある美大生の青年
ベン・バーンズ
『暗黒と神秘の骨』
リチャード・アプトン・ピックマン
ウィリアムのクラスの新入生の老人
クリスピン・グローヴァー
レベッカ
ウィリアムの彼女
オリアナ・リーマン

スタッフ

監督キース・トーマス
脚本リー・パターソン
ハワード・フィリップス・ラヴクラフト

『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』「ピックマンのモデル」あらすじ

恋人レベッカの自室で彼女のデッサンをしていた美大生の青年ウィリアム・サーバーは、その足でミスカトニック大学へと向かいます。

そこに新入生として、80代くらいに見える男リチャード・アプトン・ピックマンでした。ピックマンはデッサンの講義で、そこにないものをキャンバスに描きます。

ピックマンは幼少期からひどい人生を歩んできたようで、その人生が彼の描く絵に影響しているようでした。ウィリアムは、彼の描く絵に強烈に惹かれます。

ピックマンが夜中に墓で絵を描いているという噂を聞き、ウィリアムは墓場へと向かいます。ピックマンのクロッキー帳には、この世にないものがたくさん描かれていました。

ここから先はネタバレがあります!

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『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』「ピックマンのモデル」ネタバレと感想・考察

ピックマンとの出会い

1909年 マサチューセッツ州アーカム――青年ウィリアム・サーバーが、同じ年頃の女性レベッカをヌードモデルにしてデッサンをしていました。

すると突然、レベッカの父親が部屋の外から声をかけてきました。レベッカはからかうように微笑むと、大きな声で返事をします。

ウィリアムはあわてて上着や荷物をつかみ、部屋の窓から飛び降りました。その足で、ウィリアムはミスカトニック大学へと向かいます。

登校した途端に、男友達が腕をつかんできました。他の学生からセザンヌを悪く言われて憤慨しているのです。ウィリアムはどちらにも同意せず、静かに構内へと入っていきました。

教授は教室に入ってくるなり、学生芸術大賞の締め切りについて話し始めます。優秀賞に選ばれた作品はアーカムギャラリーに展示されるため、学生たちにとってのチャンスなのです。

今回は若き画家たちの物語なんですね。しかし、原作者はラヴクラフト――死にまつわるネガティブなものを魅力的に書き上げる作家です。

今までは、主人公が問題を抱えているパターンだったので、さわやかな好青年の主人公が出てきて驚いています。

美大生が彼女らしき人物をヌードモデルにして彼女の自室でデッサンをしている――なんて、画家志望の人でなくてもうらやましいと感じてしまうシーンです。

もしかしたら、このワンシーンだけでイラっとしてしまう人もいるのでは……? あとでひどい目に遭うでしょうから、お楽しみに!

ウィリアムが昨年の学生芸術大賞の受賞者であることに触れたあと、教授はモデルを呼び込みました。新たなメンバーとしてやってきたのは、リチャード・アプトン・ピックマンでした。

全裸の男性が股間に布を垂らし、長い棒を持って椅子の上でポーズを取ります。制限時間15分のデッサンが始まりました。

ピックマンを囲んでイーゼルを立てている学生たちに、教授が助言します。上腕二頭筋の近くのくぼみ、基本の輪郭、立体的に、陰影に頼らず、首と胴体を一体化させないで……。

ウィリアムは残り4分というところで鉛筆を置き、手を洗いに行きました。やけに激しい動きをしているピックマンの絵が気になったのです。

手を洗いつつ、ウィリアムはそっと顔の向きを変えます。ピックマンが描いていたのは、モデルそのものではなく、右腕が2本あり傷だらけで血を流す人物でした。

デッサンはものの形や光をとらえるために行われるものです。白と黒だけで描くものなのですが、ピックマンはどこから取り出したのか、赤も用いています。

これはデッサンの講義なので、おそらくピックマンの成績は振るわないでしょう。教授も周りの学生もいい顔はしないはずです。

しかし、ウィリアムは違いました。昨年受賞した実力者であるウィリアムは、ピックマンが描いたその絵に強烈な魅力を感じていたのです。

これは、基礎がしっかりできているのに、個性が見つからない人が陥りがちな考え方ですよね……。枠からはみ出したものに魅力を見出してしまう、という……。

しかし個性とは、定められた枠の中にあってもなおにじみ出てしまうもののことを指すのです。ウィリアムはまだまだ青いですね。

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優等生と新入生

ウィリアムたち学生は、ポーカーをしながらピックマンの噂話を始めました。80代に見えるピックマンは、ニューイングランドの金持ちのお坊ちゃまと言われています。

アーカム出身の母親は、ピックマンが幼い頃に壮絶な自殺を遂げ、その影響で父親は正気を失ったそうです。ピックマンは両親の遺産でヨーロッパ周遊をしていたとのことでした。

なんにせよ、見たものを描くという課題で腐った肉体を描いたことは非難の的でした。しかし、ウィリアムは思ったのです。ピックマンには“そう見えた”のだと……。

ピックマンは墓によく出没すると言われていました。ピックマンに興味を抱いたウィリアムは、墓地に行き接触を図ることにしました。

名前で呼ぶように言われ、ウィリアムはピックマンをディッキーと呼ぶことにしました。ピックマンはにこりともしないまま、ウィリアムにクロッキー帳を手渡します。

そこには、空想上の醜い生き物ばかりが描かれていました。ピックマンは、同情と利他主義がこの世の真実を隠していると語ります。

80代の新入生が入ってきたら、気になって仕方がないのも理解できます。しかし、たった半日でそこまでの情報が出回るとは、美大生恐るべし……!

確かに、大学というものは話が回りやすいものです。年代も限られておらず、成人も多いため酒の場での情報収集もできます。単純に人が多いということもありますね。

それでも、たった半日で「課題の意味を理解できないのは壮絶な過去があるからだ」と決めつけられてしまうピックマンが可哀想に思えます。

墓でデッサン――ウィリアムが言うところの、ピックマンにしか見えないものを描く行為――をするピックマンは、どこかさみしげです。

噂されている過去が事実ならば、あまり友人には恵まれない人生だったのかもしれません。孤独に生きることが、ピックマンを闇に引きずり込んだのでしょう。

ウィリアムは、ピックマンがとらえた真実に強く惹かれます。恐怖の宿る場所にこそ真実があるのだという言葉に、ウィリアムは想像力をかき立てられました。

しかし、帰宅したウィリアムの描くものには、ピックマンが語る恐怖は宿りませんでした。ウィリアムは学生芸術大賞に絵を提出することを諦めます。

翌日、学生たちの絵が評論家たちの前に出されました。ピックマンの絵は酷評されます。ウィリアムは友人を励まそうと飲みに誘いました。

しかし、ピックマンは酒場に行くのではなく、ウィリアムを自室に迎えます。そこには、恐怖を描いた絵が所狭しと並んでいました。

すでに、ウィリアムは他の美大生たちよりも、ピックマンと仲良くなりたいと思っているんですね。

ウィリアムはおそらく、このクラスの中で誰も届かないくらい高い位置にいるのでしょう。しかし、ウィリアム自身はそのことに退屈さを覚えているようです。

そこに現れた規格外の才能を持つピックマンに、ウィリアムはどうしようもなく惹かれているのです。表面上の会話しかできない相手とは違うのです。

また、ピックマンには、ウィリアムが持っていない個性があります。それは一般的な美大生にも評論家にも理解できないものですが、ウィリアムには分かります。

片や評論家に評価され受賞した若き優等生、片やほとんどすべての人から酷評される老いた新入生……しかし、この二人は友人になっていくようです。

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魔女の絵

ピックマンの曾祖母の曾祖母ラヴィニアは、魔女として火あぶりにされました。ラヴィニアは儀式で夫を殺し、まだ暖かい夫を魔女集会のご馳走にしたと、一族に伝えられています。

その様子を描いた絵は、ウィリアムにとって頭痛を引き起こすほどに強烈な作品でした。ウィリアムは気持ち悪くなってしまい、会話もせぬままピックマンの部屋を出ます。

道端で胃の中のものを吐き出したウィリアムの横を、馬車が通っていきました。その中にいるのは、頭に大きな傷がある中年男性と、謎めいた女性です。

馬車はウィリアムから少し離れた場所で止まります。そして中の明かりが消え、馬車のドアが開き、中の女性が手招きしてきました。

それに誘われるように馬車に近づいていったウィリアムは、奇妙な化け物に襲われてシャツごと体を引き裂かれ――そこで、ウィリアムの目が覚めました。

夢かと安心したウィリアムでしたが、夢と同じくシャツが切り裂かれています。ウィリアムはいつの間にか自室に戻っており、昼間で眠りこけていたのでした。

一族に伝えられた魔女ラヴィニアの話は眉唾ものですが、それをピックマンの母は語り継いでいます。伝えなければいけないこととされているのでしょう。

なぜ一族にその出来事が伝えられているのかは分かりません。ピックマンの耳に聞こえている足下からの声が、一族の血を継ぐものには聞こえてしまうからでしょうか……。

他の絵を見ても、ウィリアムはただ魅力的だとしか感じていませんでした。しかし、魔女ラヴィニアの儀式の絵だけは違います。

ウィリアムは強い頭痛や吐き気に襲われ、何が現実で何が幻覚かも分からなくなってしまいました。

遅れてパーティーにやってきたウィリアムを、レベッカは心配しつつ文句を言います。しかし、きちんと正装でやってきたウィリアムを親族に紹介することにしました。

肖像画が得意なウィリアムに、それを好むおばは好意的です。そんなとき、ウィリアムは妙な人影に気付きました。パーティー会場の植え込みへと、闇をまとう女性が入っていったのです。

ウィリアムは近くのテーブルからウイスキーを取り、ぐっと飲み込みます。なんとか気を持ち直したところに、レベッカが父チャールズを連れて来ました。

好青年を演じようとしたウィリアムでしたが、あることに気が付きます。チャールズは、昨夜見た馬車の中で謎めいた女性の乳房を吸っていた男なのです。

その瞬間、チャールズの背後に腐った女性が現れました。ウィリアムは驚いて後ずさります。給仕係にぶつかって軽い騒ぎを起こし、それがレベッカを不機嫌にしてしまうのでした。

このパーティーは、レベッカから事前に、家族に恋人を紹介するための場として伝えられていたんですね。

ウィリアムは遅刻してやってきた上に、どう見ても二日酔い……そのせいか挙動はおかしく、誰の目にも正気ではないように映ります。

ピックマンと出会うまでは、そんな失態は起こさなかったようですね。だからこそ、急な変化にレベッカは怒りと失望を覚えているようです。

私がレベッカの立場だったら――彼女にするにはいいけれど結婚相手にはしたくないから、家族の前でわざとおかしな振る舞いをしたのでは……と疑ってしまうでしょう。

ところが、この恐怖はウィリアムにとって“本物”なのです。ウィリアムだけには、魔女が見えており、そこに恐怖を感じているのです。

周囲に理解されない苦しみを、ウィリアムも感じる立場になったわけですね。

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再び、魔女の絵

ウィリアムは、すぐにピックマンの部屋へと向かいました。しかし、そこにピックマンの姿はなく、昨夜まであった荷物もなくなっていました。

1926年――ウィリアムは中年となっていました。芸術は今でも彼の生活と共にあります。真実やリスクも芸術には必要だと、ウィリアムは友人たちに語っていました。

レベッカと結婚し息子ジェームズをもうけたウィリアムは、立派な父親となっています。疲れる日々を送りながらも、家族と仲良く過ごしていました。

レベッカと共寝したある夜――ウィリアムはふと目を覚まします。階下が騒がしいことに気付き、ウィリアムは1階のリビングへと入りました。

すると、そこでは怪しげな男女が集まり、虫がはいずる腐った遺体を囲んで食事をしているのです。それは、あの日見た魔女ラヴィニアの儀式そのものでした。

トラウマになっちゃいましたね……。魔女ラヴィニアの儀式の絵は、何十年経ってもウィリアムの頭から消えることはないのでしょう。

それよりも、あの散々なパーティーからどうやってレベッカやその親戚たちに取り繕ったのか、気になるところです。

ピックマンが姿を消したことで、ウィリアムの恐怖への執着は薄れたのでしょうか? 消えた友人よりも、まだやり直せる恋人を選んだということでしょうか。

レベッカは本当にウィリアムが好き――というか、好みなんでしょうね。中年になって相手が疲れて動けない状況でも性交渉を求めるというのは、恋慕の深さを感じます。

悪夢から目覚めたウィリアムは、玄関に置かれている布に包まれたキャンバスを手に取ります。それは、ピックマンが描いた魔女ラヴィニアの儀式の絵でした。

ナイフで絵を切り裂こうとするウィリアムですが、幻聴や幻覚に襲われてうまくいきません。なぜかナイフを自身の額に向け、そこに突き立てようとします。

そこにレベッカがやってきました。声をかけられたことで、ウィリアムは正気を取り戻します。その絵は、町に戻ったピックマンが送り付けてきたものでした。

リビングのテーブルに置かれたままの魔女の絵に、目を覚ました幼い息子ジェームズが近付いてきます。ウィリアムが気付かぬうちに、ジェームズは布をめくって絵を見てしまうのでした。

ウィリアムは、ピックマンに絵を送り返すことにしました。悪夢に悩まされることも、ジェームズの寝つきが悪くなったことも、ウィリアムの頭痛の種になっています。

ピックマンは、魔女ラヴィニアの儀式の絵がウィリアムの精神に大きな影響を与えたことは分かっているのでしょう。

それを評価と取ったのか、よき思い出となっているのか、それとも世の真実を忘れさせないためか……とにかく、ピックマンは魔女の絵をウィリアム宅に送り付けました。

おそらく、現在のウィリアムは絵の評論家になっているのでしょう。ピックマンとのやりとりは忘れ、一般的な感覚に身をゆだねていると考えるのが妥当です。

そのことが、ピックマンにとっては残念だったのだと思います。皆がなんの魅力も見出さなかった絵に、心を狂わせるほど魅入られた人なのですから……。

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ピックマンとの再会

ある日、ウィリアムの同期ジョーがピックマンを連れて来ました。当時80代に見えたピックマンは、今でも同じく80代に見えます。

ウィリアムは、展覧会向きとはいえない絵を描くピックマンを招いたことに苦言を呈します。けれども、それは聞き入れられませんでした。

ピックマンと話すために墓場に向かったウィリアムでしたが、そこにいたのは妙な犬だけでした。しかし、話したいと願っていた相手は、自宅を訪ねてきていたのです。

ピックマンは、自分の絵は魂の本質を捉えていると語ります。その話で、レベッカは若い頃のことを思い出しました。降霊術をしたときのことです。

何も見えなくなり、浮いたような感覚がして、頭の中で虫が飛んでいるように思えたのです。レベッカにスピリチュアルに傾倒した過去があると知り、ピックマンは嬉しそうでした。

ウィリアムにとって、レベッカとピックマンが同じテーブルについていて、なんだか仲良さそうにおしゃべりしているというのは、あまり愉快なものではないでしょう。

一方は自分の人生を明るいほうへと導いてくれた女性であり、一方はもう少しで自分の人生をめちゃくちゃにしかけた男性です。

天使と悪魔、女神と怪物――ウィリアムにとって二人は、明暗はっきりと分かれた存在なのです。

かつてはピックマンの絵や考え、世界観に魅力を感じていたウィリアムですが、今はもう違います。権威を持つ存在となり、革新を認めても基本は守る立場なのです。

ピックマンは、ウィリアムがそういった一般的な評論家になってしまったことが悲しいのかもしれませんね。

ピックマンは、ウィリアムとまた仲良くしたいと願っているようでした。そして、ウィリアムの息子ジェームズは、自分の幼い頃と似ていると喜びます。

ウィリアムは最近、家にいることが少なく、仕事の関係者の間でもどこか変だと言われています。レベッカは、またアルコールにまつわる悪い癖が出たのではと心配しました。

ピックマンが魔女の絵を送り付けてきてい以来、闇に襲われる恐怖がウィリアムを変容させているのです。またしても魔女たちに襲われる悪夢を見て、ウィリアムは目覚めます。

その夜は、息子ジェームズの様子も変でした。誰かに襲われたように叫んでいるのです。部屋に入ると、窓が開けられて風が吹き込んでいました。

ウィリアムは決意します。ピックマンのいる墓場に向かったウィリアムは、もう二度と家族に近付かないよう警告しました。

関係を解消したい相手から親しみを持たれるというのは、つらいものですよね……。

ピックマンは唯一の理解者であったウィリアムのことを、何年経っても変わらずに友人だと思い続けていたようです。

突然姿を消しておきながら、ずいぶん勝手な言い分だと思います。とはいえ、友人関係を解消すると伝えてはいないので、そう思われても仕方がない部分はありますね。

レベッカはどんな人ともスッと仲良くなれるコミュニケーション能力の高い人なのだと思います。この人はこの話題が好きだろうな、と直感しポンと飛び込めるようです。

そこにいくと、ウィリアムはかなり頑固です。こうと決めたら一直線なところがあります。それはレベッカにとって魅力的なところでもあり、困った一面でもあるのでしょうね。

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地下室

ピックマンは、新たに描いた絵をウィリアムに見てほしいと訴えます。それができれば、展覧会を諦め、ウィリアム本人にも家族にも会わないようにするとまで言うのです。

そこまで食い下がられたため、ウィリアムは腹をくくってピックマン宅へと向かいました。家の中は荒れ放題で、電気も止まっている状態です。

二人はそれぞれランプを持って、アトリエへと向かいました。ピックマンは今でも恐怖の中に身を置いています。細い廊下を通った先に、またドアがありました。

ドアの前で待たされている間に、ピックマンは部屋の中の何者かと話していました。気になったウィリアムは、呼ばれる前に地下室の中へと入っていきます。

そこにピックマンの姿はありませんでした。しかし、地下室のそこら中に置かれた“恐怖”の絵が、ウィリアムの神経を過敏にしていきます。

ピックマンは変な人ではありますが、ウィリアムを友人として慕っていることも、その友人に絵を見てほしいと願っていることも、なんの嘘偽りのない本心のようです。

ジョーは、ピックマンの絵が年を取って洗練されたと言っていました。ですがそれは洗練ではなく、世間の好みと個性のちょうどいい交点を見つけたということなのでしょう。

ピックマンは本当は、世の真実を描いていたいのです。しかしそれは世間には理解されません。魅力も感じ取ってもらえません。

ひとり孤独に描き続けた“恐怖”を、その力を信じている人に見てほしいだけなのです。ピックマンにとって、それは純粋な思いなのでしょう。

ピックマンが部屋の中で何者かと話している声が聞こえてきましたが、これは幻聴なのか、それとも本当に怪物がいるのか……?

地下室にガソリン缶を見つけたウィリアムは、ピックマンが描いた絵にガソリンをまいていきます。奥から出てきたピックマンは、絵に脅えるウィリアムを見て驚きます。

“恐怖が宿る場所”を教えると言い、ピックマンは箱の中から何かを取り出しました。恐怖に支配されたウィリアムは、隠し持っていた小銃でピックマンを撃ちます。

床に倒れ込みながらも、ピックマンは言葉を続けます。ピックマンは、描いたものは頭の中にあるのではないと語り――次に“彼ら”と会うのはウィリアムだと告げました。

ウィリアムがガソリンに火をつけた瞬間――ピックマンが描いていた怪物が、地下室の奥にある井戸から出てきました。そして、ピックマンの遺体を井戸の中へ引きずり込みます。

今見たものを信じられないまま、ウィリアムはピックマン宅を立ち去るのでした。

ピックマンはやはり、世の真実を見ていたんですね。彼らが見えるようになると同時に、一般的な目は失われてしまうのかもしれません。

怪物と感覚を共有する感じでしょうか……。「解剖」では視力も聴力も持たない地球外生物が、人間の感覚を乗っ取っていましたが、ちょうどその逆ですね。

それを“世の真実が見える”とポジティブに捉えて絵にしていったのが、ピックマンの強いところですね。そうでなければ、ウィリアムのように気が触れてしまったことでしょう。

ここで、間違いを訂正します。ピックマンには、絵を評価してくれたウィリアム以外に、ちゃんと友達がいました! おそらく、友と言っていい相手だと思います。

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避けられなかった未来

翌日、美大の同期ジョーが展覧会の修正のため、昨晩からこもっていると聞かされます。様子を見に行くと、その部屋にはピックマンが描いた“恐怖”の絵がいくつも飾られていました。

そしてジョー自身は、目のあたりを激しく損傷していました。左目はまぶたがなく眼球がむき出しで、“世の真実”によって正気を失っているようでした。

すぐに家族のもとに向かったウィリアムは、建物を出るよう伝えます。そして、展覧会の準備をする若い青年ガブリエルに、ピックマンの絵を見ないようにはずし燃やせと指示します。

帰宅したウィリアムは、料理をする妻レベッカの後ろ姿に声をかけます。しかし、そのレベッカは――両目をくり抜かれ、血まみれになっていました。

そのとき、ウィリアムは恐ろしいことに気付きます。息子ジェームズの姿が見えないのです。大きなオーブンからは黒い煙が立っていました。

ウィリアムは、震える手でオーブンを開きます。そこには、息子ジェームズの頭がありました。それはまるで、魔女の絵に描かれた“ご馳走”のようでした。

ピックマンの過去について、両親が喪われていることが語られていました。ウィリアムが遭ったことにより、その裏側が見えてきましたね。

おそらく、母方の一族にあの怪物との関係が引き継がれてきたのでしょう。魔女ラヴィニアはその最初のひとりだったのだと思われます。

引き継がれた者は、共に過ごす家族を喪います。つまり、怪物との関係を一族の誰かから引き継いだピックマンは、そのとき父母を喪ったのです。

ピックマンが世界を周遊していたのは、ピックマンが画家だったゆえのことでしょう。世界中を旅して周り、世の真実を絵に起こそうとしたのだと思います。

しかし、それは孤独な営みです。怪物との関係を持たない人には、怪物の目を通した世界は見えません。誰からも理解されない人生だと諦めていたと思います。

そこに現れたのが、ピックマンの絵に魅力を感じてくれたウィリアムでした。幼少期に父母を喪い怪物と共に生きてきたピックマンにとって、初めての友人だったのかもしれません。

それをきっかけにウィリアムの人生は崩れていくわけですが……ウィリアムに対抗するためにピックマンを利用したジョーまで被害を受けたのは、因果応報とはいえ哀れですね。

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『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』「ピックマンのモデル」まとめ

タイトルの意味は「ピックマンが描くこの世のものとは思えない怪物の絵は何をモデルとしているのだろうか?」だと思われます。

誰もが、幼少期につらい経験をしたトラウマから生まれた妄想だと思っていたことでしょう。ところが、ピックマンの描く怪物にはちゃんとモデルがいたのです。

ピックマンはその怪物と友人のような関係になることにより、この世がまったく違った面を持っていることを知ります。

その絵に魅力を感じているウィリアムであっても、絵のモデルが実在するとは思っていなかったでしょう。

ラヴクラフト原作ですから、その物語に教えがあると考えるのは意味がないでしょう。しかし、勝手にこちらが教えをくみ取ることはできます。

それは、どんなにあり得ないと思うことでも一度仮定して信じてみるといいということです。一度は“そう見えている”と考えたウィリアムでもできなかったことですが……。

※トップ画像はNetflixから引用いたしました。

ミヅチ

ホラー好きのネタバレブロガーです。ダークファンタジーもミステリも好きです。Netflixオリジナルドラマに首ったけです。

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