Netflix独占配信映画『10DANCE』ネタバレ感想

Netflix映画『10DANCE』タイトル
この記事は約28分で読めます。

Netflix独占配信映画『10DANCE』は、ラテンダンサー鈴木信也とボールルームダンサー杉木信也とがダンスを通じて心を重ねていく物語です。

ミヅチ
ミヅチ

同じ年に、パフォーマーを題材に二人の男を描いた映画『国宝』が大ヒットを飛ばしたことについて、製作陣はどんな気持ちだったんでしょう……。

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Netflix独占配信映画『10DANCE』情報

公開日2025年12月18日
制作国日本
ジャンルLGBTQ、ヒューマンドラマ、ラブロマンス
注意書き13+
ヌード、言葉づかい
上映時間2時間8分

Netflix独占配信映画『10DANCE』主なキャスト・スタッフ

キャスト

鈴木信也(すずき・しんや)
ラテンダンス日本チャンピオン
竹内涼真
『六本木クラス』『陸王』など
杉木信也(すぎき・しんや)
ボールルーム日本チャンピオン
町田啓太
『グラスハート』『今際の国のアリス』など
田嶋アキ(たじま・あき)
鈴木のダンスパートナー
土居志央梨
『リバーズ・エッジ』『ぼくたちん家』など
矢上房子(やがみ・ふさこ)
杉木のダンスパートナー
石井杏奈
『金魚妻』『私は整形美人』など
浦島
ダンス業界誌の編集者
浜田信也
『ハヤブサ消防団』『不適切にもほどがある!』など
向井
ダンス業界誌の若手編集者
前田旺志郎
『わたしの幸せな結婚』『海街diary』など
リアナ・ジャーヴァランカ
ボールルーム世界王者/杉木の元恋人
Nadiya Bychkova
ウクライナのボールルーム/ラテンアメリカンダンサー
マーサ・ミルトン
WDL会長/杉木の師匠
Susie Trayling
『キリング・イブ/Killing Eve』
ジュリオ・モレッティ
ボールルーム世界王者/リアナの婚約者
Pasquale La Rocca
イタリアのプロダンサー/振付師

スタッフ

原作井上佐藤『10DANCE』
(講談社『ヤングマガジン』連載)
監督大友啓史
『るろうに剣心』シリーズ『ミュージアム』など
脚本吉田智子
『余命一年の僕が、余命半年の君と出会った話。』『桜のような僕の恋人』など
大友啓史
『るろうに剣心』シリーズ『秘密 THE TOP SECRET』など

Netflix独占配信映画『10DANCE』あらすじ

ラテンダンサー 鈴木信也は、1年前からボールルームダンサー 杉木信也のことが気になっていました。

二人は別の種類のダンスを踊っているため、直接競うことはありません。けれども同じ日本王者ということもあり、互いに意識はしていました。

二組には大きな違いがあります。杉木・房子組は世界に出て2位の座についていますが、信也・アキ組は一度も世界に挑戦していないのです。

活動の方向性がまったく異なる信也と杉木を繋げたのは<10DANCE>でした。ボールルーム5種、ラテン5種の両方を踊る競技のことです。

そんなとき杉木は10ダンスに挑戦するため、信也にボールルームを教え、信也からラテンを教わりたいのだと言い出し……。

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ミヅチガタリ

この作品が「BL(ボーイズラブ)の枠に収まらない」などという評価をされており、BL界隈の方々が憤慨されていました。

見てみると、その怒りがよく分かります。意外なほどに『10DANCE』はベーシックな実写BLだったためです。

けれども<単なる実写BLではない>というのは本当です。この作品は時間もお金もかけて、身体的にも精神的にも大きな負荷をかけて作られています。

異性愛にありがちなラブコメをなぞったものではありません。特殊性にばかり注目して、当事者意識が置き去りにされたものでもありません。

映画『10DANCE』の基本は、男性同士が惹かれ合い、高め合っていく様を描いたBLです。

凄いのは、その恋愛に深く絡むダンスを、恋愛と同じくらい重いものとして扱っていることです。単なる恋愛を盛りあげるためのアイテムにはなっていないのです。

信也と杉木はダンスを教え合う関係性であるため、ボディタッチが多いのが特徴ですね。

背中はエスコートするときに触るために、背中へのタッチは支配欲の表れ……そして腰へのタッチはセクシャルな意味合いを持つそうです。

そういうことを考えながら見ていると、より楽しめそうですね。また、二人のダンスパートナーであるアキと房子も魅力的なのでぜひ注目してほしいです。

社交ダンス経験者の方にとっては、本物のダンサーがたくさん出ているので、そちらも見どころになると思います!

ここから先はネタバレがあります!

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Netflix独占配信映画『10DANCE』ネタバレと感想・考察

鈴木と杉木

ある屋台の店先で、ラテンダンサー 鈴木信也がタブレットを見つめていました。ボールルームダンサー 杉木信也の動画を見ながら、煙草をふかしているのです。

杉木のダンスは完璧なステップとフォームでありながら、何かが欠けている――信也はそう感じました。その理由が分かったのは、今から1年前のことです。

「第81回 オールジャパンダンス選手権、ラテンアメリカン部門チャンピオン 鈴木信也 田嶋アキ組です! そして、ボールルーム部門チャンピオン 杉木信也 矢上房子組です!」

この頃から、信也は杉木に対していらだちを感じていました。その理由は分からないのですが、杉木が視界に入ると腹が立ってしまうのです。

チャンピオンである二組が、オナーダンスを行うこととなります。まずはボールルームダンスの杉木・房子組が、続いてラテンダンスの信也・アキ組が踊りました。

ボールルームダンスはワルツ、タンゴ、ヴェニーズワルツ、スローフォックストロット、クイックステップの5種で競うものです。

一方、ラテンアメリカンダンスはチャチャチャ、サンバ、ルンバ、パソ・ドブレ、ジャイブの5種で競います。

「この2種類のダンサーは、決して競うことはない。ある例外を除いては……」

信也と杉木は、一方が踊っているとき、もう一方は観客になります。ただし<10DANCE>では異なるのです。

ボールルームもラテンも極めたダンサーが、両者合わせて10種類のダンスを一日に40曲踊るワールドカップ――それが<10DANCE>です。

考えてみると、芸能人が社交ダンスに挑戦する企画で取り上げられるのは、大抵がラテンダンスですね。

大学時代に競技ダンス部に在籍していたキンタロー。さんは、他の芸能人とは一線を画すキレやスピード感があったな……と懐かしくなりました。

ラテンダンスに挑戦する芸能人は多いのですが、ほとんどの方が「ジャイブがきつい」とおっしゃっていました。

最後である5曲目に、テンポが速くステップが細かく、また跳ねるような動きをするジャイブを踊るのは大変そうでした。

一方で、ボールルーム――スタンダードのほうが聞きなじみのある方が多いでしょう――は、南原清隆さんと杉本彩さんが挑戦していた記憶があります。

そして、日本の芸能人が社交ダンスに挑戦するとなったときに<10DANCE>をやるという企画は今までなかったと思います。

ちなみに「オナーダンス」は英語で書くと「honor dance」です。honor = 名誉のダンスということですね。

競技中は複数のペアが入り乱れて踊るので、オナーダンスで一組をじっくり見られるのは観客としては嬉しい瞬間です。

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10DANCEへの誘い

帰国してすぐに優勝した杉木・房子組は、記者たちの注目の的でした。若手のダンス業界誌編集者 向井は、信也の立つ瀬がないと声をひそめます。

しかし先輩編集者の浦島は、二人が争うことはないし、そもそも格が違うのだと返しました。それは、信也のある行動方針によるものです。

取材を受けたあと、ひとりになった信也に杉木が話しかけてきました。杉木は10ダンスをやらないかと、信也を誘ってきたのです。

「お前、10ダンス ナメてんだろ? 一日に何曲踊るか分かってんの? ボールルーム5、ラテン5。それを1次予選、2次予選、準決勝、決勝って4回踊んだろ? 40曲だよ。俺らがふだん踊って、せいぜい20曲ぐらいなんだから、倍だよ、倍」

信也のダンスパートナーアキは、杉木のリードを受けてみたいとやけに上機嫌です。しかし信也はずっと不満げで、杉木と関わらないよう話を進めます。

万年<世界2位>の杉木にとって、信也は理解しがたい存在でした。国内チャンピオンとなり、世界に出る権利を得ているのに、何度もそれを放棄しているためです。

アジア人は1位になれないという状況で、杉木は世界に挑み続けています。1位であり続けるために国内に留まっている信也は、その座を剥奪されるべきだと語ります。

「どうやら僕の見込み違いだったようですね。センスと体格だけはパーフェクトだったのに。大層な闘争心をお持ちかと思っていたのに……。これじゃ対等に競う気にもなれませんね」

売り言葉に買い言葉で、信也は10ダンスを引き受けました。そんな信也に、杉木は<ラティーノ>と呼びかけます。

信也は杉木を「世界チャンピオン」と言いましたが、それは1位と2位を混同したわけではないと思います。

気に食わない存在であれ、杉木の実力は評価しているのです。アジア人だから1位を獲れないだけで、本来は1位につくべきだと思っているのではないでしょうか。

万年世界2位の杉木の立場になってみると、信也は世界に挑戦しない腰抜けに見えます。<チャンピオン>という看板にしがみついているように思えるでしょう。

ここで読み取れたのは、杉木も信也を評価しているのだろうということです。<日本で1位でも世界では通用しない>と思っているわけではなさそうです。

世界に出て、しっかり戦って、アジア人初の1位をもぎとるのはどちらが早いか――そういう仲になりたいのでは? と感じました。

信也の行動は、ダンス業界誌の編集者からも、あまりよく思われていないようですね。世界に出るチャンスを放り出すのは、印象が悪いようです。

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教師と生徒

翌朝、アキが車で信也の家へとやってきました。信也の部屋には、昨晩クラブで出会ってお持ち帰りした女性が二人います。

全裸で起きてきた信也は、10ダンスをやるつもりはないと語りました。けれども、アキは信也と杉木がお互いのダンスを教え合うことに活路を見出しています。

その夜、アキは信也を連れて杉木ダンススタジオに向かいました。男性同士はピリピリした雰囲気ですが、アキと房子はごく普通に接しています。

「大丈夫ですよ。『ラテンを習うなら信也先生じゃないと』って、杉木先生、ずっとダダをこねてたんですから」

不安気なアキでしたが、房子の言葉を聞いて安心します。一方、スタジオでは信也がリード、杉木がフォローをする形でボールルームのレッスンが始まっていました。

「ワルツの起源は求愛。けれど、そのホールドは手錠をかけられているのと一緒。優雅に見えて、相手に拘束され、支配される」

ラテンと違い、ボールルームはペアの下半身が密着します。それを不快に感じた信也はホールドを解きました。

しかし、練習を始めたアキを見て、諦めたようにため息をつきます。ボールルームのレッスンが終わったら、教師と生徒の立場が逆転します。

ラテンのリズムがまったく体に入っていかない杉木のため、信也はシャツを脱ぎました。上裸になった信也は、筋肉の動きを見せながら指導します。

そして、信也の腰の動きをコピーさせるため、杉木の手を自分の腰に置かせました。杉木は腰、背中、肩と手の平を移動させ、信也の動きを確認します。

「ワルツが上品な求愛なら、ラテンはむき出しのエロティシズム。相手をなめて、しゃぶって、イかせる。ハハッ、色気ねえな、おい」

余談ですが、動きがよく揃っているペアは、兄妹や幼馴染など長い付き合いの関係であることが多いですよね。

信也とアキは短くない交流がありそうですが、杉木と房子には少し距離を感じます。房子は「信也先生」と呼んでいますからね。

それでも杉木・房子組が世界2位なのは、リードする杉木が<先生>でフォローする房子が生徒だからかもしれません。

しかし「ちんこ押しつけてくる」はひどいセリフですね……。でも、この感覚的で素直な面が、ラテン特有の露骨な表現に活きているのかもしれません。

そう考えると、アキの関西のおばちゃん感のある距離の詰め方も、ラテンに合っているような気がします。

『ボールルームへようこそ』では<女は花。男は額縁。>と語られていました。女性が額縁の中で咲く花だとすると、杉木の表現とも合いますね。

ボールルームとラテン、両者の表現方法は真逆とも言えるほど違います。どちらも身に着けるというのは、かなり難しいことなのでしょうね。

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紳士と淑女

信也とアキは、過去に恋人のような関係性であった時期もありました。しかし現在は、ダンスを通じた同志となっています。

「先生は、名もなかった私をここまでにしてくれた。だから私は、先生のリードに身を委ねてついていくだけ。愛されてると感じたことはないし、感じる必要もないかな」

先に帰った女子たちがそんな会話をしている頃、信也と杉木はまだスタジオにいました。始発までの間、杉木はボールルームを踊り続けているのです。

「御免なんですよ、2位はもう二度と。観客が審査結果にブーイングするほどの力が僕にはなかった」

一番を追い求めているのは、杉木も同じでした。世界という高みで頂点を目指して毎夜汗を流す杉木の姿から、信也は熱い思いを感じ取ります。

信也とアキが組んで、ボールルームを踊る練習が始まりました。しかし、音楽がない状態で踊るのは、信也にとって難しいことです。

「あなたに音楽はまだ早い。僅かな狂いもなく、カウントを体に覚え込ませる。それが僕のやり方です」

再び杉木とホールドすると、杉木は途中で離れていってしまいました。自分本位なリードでは、女性を危険にさらしてしまうと杉木は説きます。

そもそもボールルームの女性は高いヒールを履き、無理な体勢で踊っています。それを実感させるため、信也にフォローの姿勢で立ってみるよう、杉木は指示しました。

一人では立っていることも難しい姿勢をしている女性に、手を差し伸べるのがボールルームにおける<紳士>なのです。

杉木が姿勢や動きを重視するのは、ボールルームにおけるフォロー――女性が<拷問に近いことをしている>と理解しているからなんですね。

そんな状態にある房子が「先生のリードに身を委ねてついていくだけ」でいいと感じているのですから、杉木は本当に優秀なリードをしているのでしょう。

房子は<杉木からの愛を感じる必要はない>と考えています。それはつまり、愛に代わるだけの誠意を持って接していると言えるでしょう。

<俺についてこい>タイプの信也は、まず考え方を変えなければなりませんね。

先ほど気付いたのですが、杉木役と房子役はどちらも同じ事務所の方ですね。同じ系統のダンスの経験者であることが、息の合い方に役立っていそうです。

ところで、信也の内面が度々モノローグで語られています。信也は自分の中のラテンの血や魂、ハバナの気候風土や文化について触れています。

その語りからは、信也が渇きや飢えのようなものを感じているように思えます。それはラテンダンスや女遊びでは埋められないものなのでしょう。

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戴冠式と革命

レッスンを終えると、杉木は信也を食事に誘いました。杉木は立派なレストランに信也を連れていき、コロネーションチキンを食べさせます。

テーブルマナーを守らず、信也は料理をがっつきます。そんな信也の一挙手一投足について、杉木が注意していきました。

10ダンスに勝利したあと、一流どころから食事に誘われたときのレッスンです。それを知った信也は、自分のテリトリーへと杉木を招待しました。

野外のテーブルでキューバ料理をつまむ杉木に、信也が強い酒を注ぎます。こちらでは飲み笑い踊るのがマナーだと、杉木に教えたのです。

「エリザベス2世がコロネーションチキンを振る舞ったその頃――キューバではカストロが革命の狼煙を上げた。俺たちの間にも、それぐらいのギャップがあったのだろう」

ホールドしただけで杉木の感情が伝わってきたのだと、信也はアキに語ります。そんな信也に対し、アキは恋をしているみたいだと返しました。

アキの言葉を鼻で笑う信也ですが、杉木から電話がかかってきて表情を変えます。知らぬ間にイギリスの大会に出ていた杉木に、対抗心を燃やしたのです。

10ダンスで杉木に勝つのだと、信也がアキに宣言した頃――杉木は房子と共に第98回 UKベストダンス選手権に臨んでいました。

最終12組のボールルームダンスを見るため、マーサ・ミルトンが会場を訪れました。Ms.マーサはアジア系ダンサーの育成に力を入れているWDL会長です。

杉木はMs.マーサの愛弟子といわれており、アジアのマーケット戦略の要とされています。そのためか、Ms.マーサは杉木に対して厳しく注意しました。

「Dance is neither about technique nor stamina. Love is what makes it whole, but… I don’t feel any love in the way you dance.(ダンスは技術でも体力勝負でもない。愛を持って完成する。だけど――あなたのダンスには愛を感じない)」

<コロネーションチキン>は別名<プーレ・レーヌ・エリザベス>だそうです。

<Coronation>は戴冠式です。<Poulet>は食用の鶏肉、<Reine>は女王です。どちらの名前でも、王を讃えた料理であることが分かりますね。

冷製チキンをカレー味のクリームソースで和えたものとのことで……現地ではイギリスではポテトサラダのような立ち位置のお惣菜だそうです。

杉木は言葉こそ嫌味ったらしいのですが、先々まで見すえて、信也に足りないものを補おうとしていますね。

信也もその気概に応えてなのか、ラテンに根差す魂を伝えようとします。体を楽器にして……と感覚を身に着けるよう<指導>していました。

Ms.マーサが会長を務めるWDLというのは、おそらく<World Dancing League>のことだと思われます。

世界の頂点を知る者だからこそ、杉木・房子の両者が必要ないと判断している<愛>の重要性を知っているのでしょう。

冒頭で信也が言っていたように、杉木の<型>は美しいのです。しかし、そこに入るはずの<愛>が抜け落ちてしまっているようですね。

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二人の違い

観客に飽きられる前に引退するよう勧められた杉木は、視線を泳がせます。けれども帰国して信也と再会したときには、そんな様子は一切見せませんでした。

信也はその夜初めて、曲をかけてボールルームを踊ります。杉木を相手にリードを務め、姿勢を少しずつ矯正されながら型を入れていきました。

杉木はマーサの家で育っていました。優勝したマーサをリードする男を見た杉木は、その男に恐怖を感じ、取って代ろうとしたのです。

一方、信也はキューバのハバナで子ども時代を過ごしたとき、その地に魅了されていました。どちらも母親と共に、思い出の地で過ごした過去があったのです。

互いのダンスを教え合う中で、アキと房子も仲を深めていました。二人は、男性たちに聞こえないように情報交換をします。

「信也、ホントは前から杉木先生に夢中なの。何年か前、たまたま動画見たって。『パーフェクトなダンサーを見つけた。けど、なんか苦しそうに踊ってる』って、変なことも言ってたけど」

房子は踊っている杉木を見つめながら、考えをめぐらせています。しかし、その心の内を言葉にすることはありませんでした。

レッスン中、またしても杉木が急に信也から離れていってしまいます。自分と杉木との違いは何かと、アキに尋ねます。

杉木は相手が収まる場所を作り、絶妙な緩急によって、相手の体が自然についてくるように仕向けているのです。<俺が俺が>な信也とは違います。

「房子さん、僕と組んだからには、この会場の誰よりも美しく踊らせてあげます。今日から世界中のダンサーに『矢上房子は美しい』『矢上房子になりたい』――そう言わせるのが、僕の悦びです」

初めて競技会に出るとき、杉木が房子にかけた言葉です。こういった機微が信也にはないのだと、アキは語りました。

アキのいいところは「ここがダメ」とは言わないことですね。あくまで、信也は杉木とはこういうところが違う、と語っています。

パートナーとしてやってこれていることから考えても、信也と合わないわけではないんですよね。

ただ、<元々の気質が合う>と<気質はどうあれ合わせにいく>とでは、まったく違います。

おそらく、杉木とアキの気質は合わないでしょう。それでも杉木は、アキの体が勝手に動いてしまうほどに巧みなリードをしているのです。

キャラクターを見てみると、杉木は少女漫画における当て馬キャラに近いです。それに対して信也は、強引に引っ張っていく本命キャラですね。

相手を理解し寄り添い時には手を引く杉木はまさしく<額縁>です。房子を<花>として輝かせる立場になっています。

信也にその感覚はまだ理解できなさそうですね……。押しつけがましいとまで言ってしまうと可哀想ですが、現状その通りだと思います。

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死神

友人がバーテンダーをやっている店に行った信也は、杉木との関係は疑似恋愛だと指摘されました。

欲情はしていないけれど、誰かに寝取られるかもしれないと考えると、心がざわめきます。信也は、そんな自分に戸惑っていました。

イルミネーションの中を歩く杉木は、ふと立ち止まると、ガラス張りの建物の前で踊り始めます。バーを出て帰路についた信也は、偶然その姿を見つけました。

信也に話しかけられ、杉木は一旦ダンスを止めます。しかしすぐに再開し、気の済むまで踊り込みました。

踊り終えた杉木は、信也と共にアイリッシュ・パブCRAICに入ります。そこで信也は、杉木が苦しそうに踊っていたときの相手は誰なのか尋ねました。

房子は自分ではないと語りましたが、それは事実ではありませんでした。3年前、パートナーになったばかりの二人は、注目を浴びながら踊っていました。

クイックステップを踊っていたとき、激しい衝突事故が起きたのです。自分とぶつかった女性が倒れ苦しんでいるのを見て、房子は我を失ってしまいました。

ストレス障害になった経験のある房子を躍らせるため、杉木は強硬手段に出ます。叱咤と罵倒を繰り返すことで、房子の体が勝手に動くように仕立て上げたのです。

「僕は、事もあろうに、その状態の彼女を気に入ってしまった。まっ、もともとそういう男なんでしょうね、僕は。紳士とは程遠い。まるで死神のようだ」

信也は、好奇心で話を聞き出してしまったことを後悔していました。弱気なことを言う杉木に、つまんねえと言い残し、信也は去って行くのでした。

杉木は、師匠Ms.マーサの相手を<死神のような男>と感じていました。そこからボールルームを始めたことで、行き着く先が死神になってしまったのでしょうか……。

房子の地に足のついていない、幽霊のようにぼんやりと生きている様は、3年前の事件がきっかけとなって陥った状態なんですね。

そして、黒いドレスを着ていたことすら覚えていないのは……そのときの記憶がないのでしょう。

杉木の指示通りに体を動かし、リードされるがままに進んでいっていたためです。まるで意思を持たない操り人形のように……。

競技ダンスでは、こういった衝突事故が起きることもあると聞きます。それを回避するようリードするのも、本来は男性の役割なんですよね。

こうして杉木が身に着けた<技術>を、アキはやりやすいと評していました。しかしそれは、アキの我が強いからであって、気が弱いと呑み込まれるのかもしれません。

信也は、杉木が誰かに奪われるのは喜ばしくないと感じています。その上、杉木には強気な態度で接してほしいと思っているようです。

リードする側になれば<お前も楽しいだろ!?>となり、フォローする側になれば<俺をちゃんと導けよ!>となる、非常に面倒な人ですね。

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重なる想い

ひとり残された杉木は、灰雪の降る中で立ちつくします。一方、信也はプラットホームで電車を待っていました。

杉木は、視界を通り過ぎていった電車を見て、思わず駆け出します。そして信也が乗っている電車へと乗り込みました。

杉木は、ドアにもたれている信也の後頭部に手を回します。そのまま触れそうなほどに顔を近付けると、杉木は問いかけました。

「嫌ならやめても……」

信也ははじかれたように、杉木と唇を重ねます。想いを確かめ合った瞬間は、二人きりの空間にいるように感じられました。

「あんたはそのキャラを通せ。死神になればいいんだよ。俺はブラックプールの死神を倒す天使になる」

信也が先に降りたあと、杉木は電話越しに遠征を誘います。いまだ世界に出たことのない信也を、世界の人々へ披露すると言うのです。

2ヶ月後――二組の姿はブラックプールにありました。正装した四人は、インペリアルホテルへと入っていきます。

最初に入った杉木は、パーティーに来ていた人々に挨拶します。少し離れた位置から、房子が信也に説明をしました。

WDL会長で杉木の師匠 Ms.マーサ、カール・アラン賞を獲った元世界チャンピオン、大会ディレクター、勲章を持つ経済界の大物――。

これがSNSで話題になっていた<思わずツッコミを入れてしまう電車シーン>ですね。

お二方の演技は素晴らしいのですが、それよりも気になってしまうことがあるのです。そう、電車内にあるクリスマスの装飾品です!

酔っ払った乗客が忘れていったものと考えようとしましたが……工具がないと付けられなさそうなものがあったので、それは無理筋ですね。

また、二人の心象風景という線も考えました。しかし、他の乗客が現れても変わらなかったので、これも違います。

まあ……BL実写モノあるあるの演出ではありますよね。映画『窮鼠はチーズの夢を見る』では、おしゃれな瓶に詰め替えられた潤滑剤がそれにあたります。

少女漫画における雰囲気や感情を描写するトーンのようなもの――と考えればいいと思います。

しかし信也のほうの信也は、相手を死神と呼びつつ、自分を天使と称するんですね。ここまで吹っ切れていると、むしろ好感が持てます。

イギリス遠征の際の信也のスーツは、アキが選んだのでしょうか……。信也自身は、こういったものを用意しているタイプではなさそうです。

杉木が信也のスーツを、房子がアキのドレスを選んだということも有り得ます。ブラックプールのドレスコードを知っているのは杉木・房子の二人ですからね。

ボールルームの房子は白い厚手のドレス、ラテンのアキがボルドーのベロア生地のドレスで、それぞれの個性に合っているのがいいですね。

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元恋人と王者の座

杉木により、振付師 ニーノとコスチュームデザイナー ファビオ、ヘアメイク キャサリンを紹介されました。彼らは杉木・房子組の欧州チームの人々なのです。

<もうひとりの信也>と呼ばれ、信也は複雑な気持ちになりました。一方アキは、ラテン世界王者 アルベルトを見つけて興奮しています。

杉木に声をかけてきたのは、ボールルーム世界王者 ジュリオ・モレッティです。そのパートナーは<世界の妖精>リアナ・ジャーヴァランカ――杉木の元恋人です。

「I’m here to tell you something. Liana and I are getting married after the competition.(今日は君に知らせたいことがあってね。リアナと僕は、試合が終わったら結婚する)」

ジュリオの言葉に、杉木は表情を変えずにお祝いの言葉を返します。後ろにいて杉木の表情が見えない信也は、嫉妬心にかられました。

信也は、ジュリオに喧嘩腰で話しかけます。パーティーのあと、ボールルームに出場すると言い出した信也を、杉木はなだめました。

信也のボールルームは10ダンスのために隠しておくようにと、杉木は命じます。けれども信也は、その言葉に納得できません。

「そうやって追い込んできたんだ? 房ちゃんのことも……俺も? 道化なのは、あんたのほうなんじゃないの? だから女も寝取られるんだよ」

信也の前では表情を保った杉木でしたが、過去の記憶がよみがえってきます。王者になるためにと、リアナがパートナー解消を申し込んできたときのことです。

杉木とでは王者になれないと告げたリアナ、そして<愛>が重要だと語ったMs.マーサ――杉木は、愛では勝てないのだとひとりつぶやくのでした。

ジュリオは、実力を伸ばしてきたであろう杉木に対して、精神攻撃をしかけてきたのではないでしょうか。

杉木にとってジュリオは、ダンスのパートナーを奪ったライバルでもあり、私生活のパートナーを奪った男でもあるんですよね。

元々ポーカーフェイスな杉木は、ジュリオに悟られぬ程度にしか感情を表に出しません。

信也からは杉木の背中しか見えないので、より感情を読み取りにくいはずです。それでも、杉木の感情が揺れたことを信也は察知しました。

信也は遊び人の割に、惚れた相手のことをよく観察するタイプなんですね。だからモテるのでしょうね。

その一方で、杉木が触れられたくないであろう<寝取られた>という過去に踏み込んでいます。デリカシーがないのか、わざとなのか……。

相手をコントロールしていると思っているのは杉木だけで、本当は踊らされているのではないか――信也はそう問いかけたわけです。

杉木のダンスに愛がないことを、師匠マーサにも元恋人リアナにも、信也にまでも見抜かれてしまいました。

杉木も房子も<愛はなくていい>と考えていますが、本当にそうなのでしょうか。

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奪われた男

第73回ワールド・チャンピオンシップがブラックプールタワーで開催されました。200組以上が参加する試合です。

準備を終えた房子が、杉木の過去を語り始めました。リアナとのパートナー解消後、新たなパートナーを見つけるのは、とても難しかったのです。

候補が見つかっても、杉木の厳しさに誰もが音を上げてしまいました。その中で残ったのが、<落ちこぼれ>の房子ひとりだったと……。

「先生は自分を追い込み、痛めつけることでしか強くなれない。私は、その先にあるのものを一緒に見たいだけ」

競技が始まると、ジュリオはわざとに杉木に寄ってきて踊りました。その様子を見ていた信也は、フラストレーションをぶつけるかのように激しく踊ります。

ラテン決勝で踊る信也を見て、杉木は初めて信也を見たときのことを思い出します。アマチュアの試合で楽しそうに踊る信也は、観客席の話題の的でした。

杉木もそのダンスに魅了され、自然に涙をこぼしていました。そのときの再現のように、人々は<無名>の信也の踊りに目を奪われています。

ボールルーム決勝の結果が発表されました。信也・房子組はジュリオ・リアナ組に次ぐ2位でした。

会場にいた識者は、信也・リアナ組のことを回想します。リアナに夢中だった信也のダンスは魅力的でしたが、踏風の似たジュリオを前に万年2位の男となってしまいました。

そんな話を聞き、信也は怒りを爆発させます。杉木が2位になることにロマンを感じるなどという勝手な意見は、信也にとって許しがたいものでした。

杉木はリアナと踊っていたとき、<愛>のあるダンスをしていたようです。けれども、公私共にパートナーだったリアナの裏切りが、杉木を変えてしまいました。

リアナは踏風――カウントの取り方が似ているジュリオを選んだのです。それも、杉木からプロポーズを受けたあとのことでした。

杉木はその瞬間、ダンスのパートナーと愛する人、そして世界王者の夢も失っていたんですね。

どん底の杉木を救ったのは、心と体が直結したダンスを踊る信也でした。アキの言っていた「俺は楽しい! お前も楽しいだろ?」ですね。

ボールルームには向かない気質です。しかし、その気質が表れたダンスこそが、杉木を再び踊らせた理由となっていたわけです。

これで杉木が好きになった相手はリアナと信也の二人となり、比較することができるようになりました。

おそらくリアナとパートナーだった頃、杉木はリアナへの愛をダンスへと昇華させていたのだと思います。

けれども、その結果は<恋敵に公私ともに負ける>というものでした。王者の座に愛など関係ないと考えてしまうのも、無理はありません。

信也との関係の築き方は正反対です。ダンスで何度も身体的感覚を共有させることで、感情が動いていったのです。

情熱を爆発させながらぶつかってくる信也は、ボールルームにはいないタイプのダンサーでしょう。10ダンスでもない限り、近付く理由ができない相手です。

そう考えると、10ダンスが信也と杉木とをめぐり合わせてくれたとも考えられますね。

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理想の恋人

スペシャルオナーダンスに指名されたのは、杉木とリアナでした。それを聞いた観客は万雷の拍手を送ります。

信也は息を呑んで、二人を見つめていました。もうすぐ結婚する元恋人を相手に<理想の恋人>を演じる杉木は、スタンディングオベーションを受けます。

帰宅した信也は、酒とたばこで荒れた気分を落ち着けようとします。そこに杉木がやってきて、すねる信也に問いかけました。

「僕は<まだリアナに未練があって、他の女性には見向きもせず、彼女を一途に想い続けている男>……そう見えましたか? 観客が再会もののラブストーリーを疑似体験できれば、先ほどの<ショー>は成功です。誰も、そのあとのジュリオのショーを見ていなかったでしょ?」

余裕綽々といった様子で話す杉木に、信也は質問し返します。1位になれなかった悔しさを抑えつけているように見えたためです。

感情に身を任せて、信也は杉木をベッドに押し倒しました。杉木は何度も信也を押しのけようとしますが、信也は止まりません。

信也を止めるため、杉木は信也に馬乗りになると、その首に手をかけました。冷静になったのか、やっと信也が動きを止めます。

「あなたとは、これ以上一緒にいられない。このまま越えたら、こっちが壊される。――あなたはもはや敵なんです」

その言葉は本心ではないはずだと、信也は何度も問いかけます。それでも杉木は、拒絶する態度を崩しませんでした。

杉木の興味は元恋人リアナではなく、すべてを奪った男ジュリオに向けられているようです。

けれどもそれは、<世界王者になりたい>という夢を阻む壁であるからに他ならないのです。

オナーダンスで注目を集めたところで、結果は変わりません。杉木はまたしても世界2位となったことに、悔しさを覚えているはずなのです。

信也は、その悔しさをぶつけてもらって、受け止めたかったのでしょう。しかし、ボールルームダンサーにとって<紳士>であることは規則なのです。

杉木は<紳士>として、信也を<お姫様>にすることはできます。それこそがボールルームダンサーにおいての<理想の恋人>だからです。

一方で、ラテンダンサーのように体を楽器にして思うままに動き、響き合うことは難しいようです。

杉木は自分のマイナスな感情を解放させることができないということですね。すぐ怒り、すぐ涙目になり、すぐ落ち込む信也とは正反対です。

あまりにも両極端なため、どちらのほうがよいとは言い難いですね。ただ、杉木のほうが圧倒的に生きづらさを抱えていることは察せられます。

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二人の距離

翌朝、信也は右足の裏にけがをしていることに気づきました。自分が投げつけて割ったグラスの欠片が刺さってしまったのです。

姿を見せない信也を捜すため、アキがやってきました。車のラゲージルームで休んでいる信也を見つけると、アキは語り始めます。

「あたし気付いたよ。あたしはもっとできる。あたしたちは、もっとやれる。ねえ、あんたならさ、どこまでだっていけんじゃん!」

発破をかけにきたアキを抱きしめて、信也は歩き出しました。衣裳と髪型とを新調し、より高みを目指し始めたのです。

信也のダンスは感情任せではなく、自分の身体をコントロールし、より美しくポージングを取るものへと変わっていきました。

ふと鏡の前でボールルームの練習をすると、誰もいないはずの場所に、ホールドされた杉木の姿が浮かんできます。

そして半年後――アジアカップダンス選手権2026が行われました。記者 浦島は、招かれた外国人選手を勝たせるため、信也は優勝できないと見ています。

杉木と会わなくなった信也を、アキは心配していました。そんなアキに、信也は自分の考えを明かします。

「ブラックプールであいつを見て思った。俺たちがやってるのはダンスだ。客もダンサーも一緒くたになって、魅せられて感じるもんだろ。俺もあんなふうに観客を腰砕けにしたい」

ゲストとして招かれている杉木に、信也は会いに行きません。それは信也の覚悟によるものだったのです。

ものに当たるのはよくないと思います。グラスは何も悪くないので……。自分で踏んづけてますし……。

回想シーンにて、アキはアマチュアの頃からずっと信也と組んでいることが明かされました。つまり世界の舞台に立ったのは、信也同様、初めてだったのです。

そこでアキは、手ごたえを感じたのだと思います。世界の頂点だって狙えると、肌で感じたのでしょう。

そのアキに応えるためか、信也は<日本王者>ではなく<世界王者>になるためのレッスンを始めました。

どんなダンスでも――いや、どんなスポーツでも、指先まで神経の行き届いた動きというのは美しいものです。

杉木が観客を魅了したダンスにはそれがあって、信也のダンスにはないことを、ブラックプールで痛感したのでしょう。

杉木と対等な関係を築くため……なのか、信也はプライベートで杉木と会わないようになりました。

それでも身体に染み付いた<杉木とのボールルーム>は残っています。そうなると、ボールルームを踊る度に杉木が思い出されることになります。

杉木も同じでしょう。10ダンスのためにラテンを練習すれば、おのずと信也が思い出されるはずです。

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完成されたダンス

「近くにいるのに遠いな」

杉木の脳裏には、師匠 Ms.マーサの言葉が浮かんでいました。<ダンスは愛を持って完成する>――。

ラテン優勝者は、アレッサンドロ・レオン アナマリア・バレンティーニ組でした。信也は壁側へと向いたまま、首にかけられたメダルを外します。

デモンストレーションとして、杉木と房子が呼ばれました。けれども、出てきたのは杉木ひとりです。

ひとりで中央に進み出た杉木を見て、観客たちがざわめきます。そんな中、杉木はまっすぐに信也に向かって歩き出しました。

「僕と踊ってくれませんか?」

信也は振り返り、杉木が差し伸べた手を取りました。二人は少し離れた位置に立ち、向かい合います。

その姿を、アキと房子が見つめています。ワルツが始まり、杉木がリード、信也がフォローになり踊り始めました。

タンゴ、スローフォックストロット、クイックステップへと続きます。二人のダンスに会場が釘付けになる中、今度はラテンダンスが始まりました。

チャチャチャ、サンバ、ルンバ、パソ・ドブレ、ジャイブと目まぐるしく二人は踊り続けました。

いつしか座っていた観客も立ち上がり、手拍子で二人に応えます。そんな中、二人はいつしか満面の笑みになっていました。

社交ダンス経験者の方がSNSでおっしゃっていました。杉木役の町田さんは、ボールルームダンサーが踊るラテンダンスの動きが本物に近いそうです。

優雅さや上品さがちょっとした動きに出てしまうところは、確かに「この人はラテンダンサーではない」と感じさせますね。

ところで、房子が杉木のぼやきを聞いているシーンがありました。もしかしたら、信也を相手に踊ることは、房子の提案だったのかな……と思いました。

房子の望みは、杉木が望む景色を共に見ることです。落ちこぼれを自称していることもあり、杉木を連れていくのだという考えはありません。

アキのように、切磋琢磨しながら頂点を目指そうということでもないでしょう。

その代わり、房子には、じっくりと杉木を観察し理解する能力があるように思われます。そのため、杉木に必要なのは信也だと判断したのではと思ったのです。

個人的には、房子が落ちこぼれだとは思いません。本当に落ちこぼれならば、杉木の厳しい練習についていけるはずがないからです。

杉木が咲かせる<花>になるだけの実力がある房子ですから、もう少し自信を持ってほしいな……と願ってしまいます。

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約束

最後は、ボールルームの種目ヴェニーズワルツです。他のダンサーたちも入れて、一気に華やかになります。

その中央で、信也と杉木は見つめ合っていました。動きを止めた二人は、互いの顔を近付けます。

「10ダンス決勝で会おう」

二人は幾度か口づけを交わすと、そのまま別の方向へと歩き出しました。残ったダンサーたちが、ヴェニーズワルツを踊り続けています……。

※トップ画像やセリフ、モノローグはNetflixから引用いたしました。

ミヅチ

ホラー好きのネタバレブロガーです。ダークファンタジーもミステリも好きです。Netflixオリジナルドラマに首ったけです。

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