Netflixドラマ『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』「外見」ネタバレ感想

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Netflix独占配信の『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』「外見」は、自分は劣っていると感じている女性ステイシーがあるテレビCMをきっかけに変わっていく物語です。

ミヅチ
ミヅチ

「解剖」がかなりグロテスクだった一方、こちらは剥製にする過程で内臓を取り出す描写くらいです。いつ描写されるのか予測もつきやすいので、苦手な方でも大丈夫だと思います。

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Netflixドラマ『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』「外見」情報

日本公開日2022年10月25日
制作国アメリカ
ジャンルホラー
注意書きR-16+
暴力、ヌード、言葉づかい、薬物
上映時間1時間4分

『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』「外見」主なキャスト・スタッフ

キャスト

ステイシー・エリザベス・チャップマン
銀行で働く地味な女性
ケイト・ミクーチ
『ラストツアー』
キース・チャップマン
ステイシーの同居人/警官
マーティン・スター
アログロ男
テレビCMでアログロを宣伝している男
ダン・スティーヴンス
『ラブ、デス&ロボット』『アポストル 復讐の掟』

スタッフ

監督アナ・リリ・アミールポアー
『マッドタウン』
脚本ヘイリー・Z・ボストン
エミリー・キャロル

『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』「外見」あらすじ

イースト・サバーバン銀行に勤めている若い女性ステイシーは、同僚たちが皆モデルのように美しく着飾っている“一軍女子”であることを気にしています。

ステイシー自身は化粧っ気がなく、地味な女性なのです。性格もまるで異なるため、彼女たちの会話に入っていくことなどできません。

そんなステイシーは、同僚たちの中でも最も美しい中心的人物ジーナに強く憧れていました。とはいえ、ステイシーはジーナに話しかけることもできません。

歳の近い地元の警官キースは、そんなステイシーを気にかけています。周りに溶け込めないステイシーは、自分が劣っていると感じているのです……。

ここから先はネタバレがあります!

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『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』「外見」ネタバレと感想・考察

私みたいな女

クリスマスの夜、イルミネーションに彩られた民家が並んでいます。そのひとつに、暖炉の前でテレビを見ながらグリルチキンを頬張る若い女性ステイシーがいました。

ザッピングをしていたステイシーは、妙な物音がしたことに気付きます。女性ひとりのため、ステイシーは斧を持って家の中を見回ることにしました。

家の中に不審者が見つからなかったため、ステイシーは110番します。グレン・エリン警察署の警官キース・チャップマンが電話を取りました。

ステイシーがこういった電話をするのは珍しいことではなく、いつも誰もいないのです。警官キースは不安がるステイシーからの電話を一方的に切ってしまいました。

今回の主人公であるステイシーは、かなり神経質な女性のようですね。広い家に一人暮らしをしているため、誰かが侵入してもすぐには分からず不安になる気持ちは分かります。

しかし、何度も何度も、それこそ顔見知りになってしまうほどに110番をかけてくる地域の女性にうんざりしてしまう警官キースの気持ちも分かります……。

アメリカにおいてクリスマスの夜にひとりでいるということは、日本よりもかなり奇異に映る行動だと思います。

離れて過ごしている家族や親戚が一堂に会して食事やプレゼント交換を楽しむのが一般的――とのことですし、ステイシーは孤独な女性なんですね。

日本とは違って多くのお店が閉まっているとのことで、おひとりさまが楽しく過ごせる場所はなさそうです。ぼっちに厳しい国ですね……。

出勤したステイシーは、周りの女性たちの会話に入ることができずにいました。メイクもファッションもばっちり決まっている“一軍”の女子とステイシーとの間には溝があるのです。

ピンヒールを履いた一軍女子たちは、女友達の脂肪吸引や豊尻、薬物、不倫、性的指向などについて絶え間なく話し続けています。

化粧っ気もなく地味な服装のステイシーは、彼女たちと仲良くしようにも輪に入っていけません。そして閉店後になり、ひとり残ったステイシーはレジ締め作業を行います。

そこにやってきたレズビアン疑惑のある女性キャシディが、ステイシーに話しかけてきました。明日、ジーナ・ケーポフの家で行われるプレゼント交換会に呼ばれたのです。

プレゼントを贈る相手が書かれたくじを引くと、そこには「ジーナ」と書かれていました。一軍女子へのプレゼントとして、ステイシーはとっておきのものを用意します。

それは、自ら撃ち落としたマガモの剝製でした。そこに現れた友人の警官キースは、周りと違うことを劣っていると感じているステイシーに、やんわりと異を唱えます。

ステイシーは自分のことを「someone like me」と言っています。「私みたいな人(女)」から転じて「こんな私」「私ごとき」と自分を卑下する表現ですね。

化粧っ気がない……というか、本当に化粧をしていないように見えるステイシーは、レジで働く成人女性としてはかなり珍しいタイプだと思います。

クリスマスの雑貨か何かを売っているお店のようですが、ステイシー以外の女性たちは皆、きれいに着飾っています。まるでパーティーにでも行くかのような格好です。

しっかりめのメイクをして、髪もボリューミーに整えて、ピンヒールを履いているのです。アクセサリーも豪勢です。それがこのお店の平均値ならば、ステイシーはだいぶ浮いています。

ノーメイクで、プレーンなハイネックにカーディガン、ロングスカート、ノーヒールの靴、アクセサリーは一切なし……。

そんなスタイルのステイシーですが、心の中では常に友達に囲まれていてモデルのような美しさを誇るブロンドの女性ジーナに憧れているのです。

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マガモの剥製

精一杯に慣れないおしゃれをして、ステイシーはジーナの家へと向かいます。飼い犬デライラにほえられてしまいましたが、ジーナは快くステイシーを迎えてくれました。

パーティーに集まっている女性たちは皆、光沢のあるイブニングドレスをまとい、大きなジュエリーを身に着けています。

それに比べるとステイシーの服装は、発表会に出る子どものようです。彼女たちの会話は性交渉に関するものばかりで、経験の乏しいステイシーは聞いていることしかできません。

話題が整形に移っても、ステイシーは聞き役に徹していました。そのとき、ジーナがサンタとして皆にプレゼントを配り始めます。

プレゼント交換会と聞いていたステイシーは戸惑います。プレゼントの箱には“アログロ”と書かれており、招かれた一軍女子たちは皆大喜びしていました。

見ているだけでつらいシーンですね……。私はステイシー側に近いので、もし自分がこういう立場に置かれたらと思うとゾッとします。

私の場合は、そもそも一軍女子に憧れていないのでパーティーに足を運ぶことがないのですが――ジーナに憧れているステイシーが行かないはずがないですよね。

そもそも、性交渉と整形と噂話とで盛り上がる一軍女子たちと、狩猟から剥製作りまで自分ひとりで行えるステイシーとは相容れない存在だと思います。

おそらく、視聴者は皆この先の展開が見えているでしょう。分かっていないのはステイシー本人くらいです……。

ステイシーは、マガモの剥製が入ったプレゼントボックスをジーナに渡します。大きな箱を見て、周りの女子たちも盛り上がっていました。

周りに急かされて、ジーナは箱を開けます。マガモの剥製を見たジーナは言葉を失いました。撃つところからステイシーが行ったと知り、ジーナの笑顔が凍ります。

一気に冷めてしまった空気を変えたのは、ジーナが皆に贈ったアログロのハンドクリームでした。皆、嬉しそうに体中にクリームを塗り込んでいきます。

しかし、皆と同じように顔にクリームを塗り込んでいると――ステイシーの体に異変が起こりました。成分が合わなかったようで、発疹が出てしまったのです。

ステイシーはパーティーを台無しにしてしまったことを謝りつつ、ジーナの家を後にします。帰宅したステイシーを見た警官キースは、発疹はアレルギー症状だと推測しました。

ジーナは一軍女子の中でもかなり気が遣える人のようで、マガモの剥製を見ても叫んだり文句を言ったりすることなく、冷静に対処していました。

周りの女子たちは、はっきりと拒絶の反応を示していました。そのことも分かっていて、ジーナはステイシーの気持ちには感謝しつつ、剥製を箱に戻して部屋から出します。

ステイシーが剥製を作っているときから「それだけはない」と思っていましたが、やはり一軍女子たちにとって自作の剥製はあり得ないプレゼントでしたね。

アログロのクリームがどんな効能を持つのかはよく分かりませんが、ジーナのお気に入りであり、一軍女子たちの間ではステイタスになるもののようです。

そのクリームがステイシーにとってはアレルギー症状を引き起こすものである……というのも、一軍女子と相容れないステイシーの存在を表すようで、見ていられません。

しかし、どんなお店かと思っていたら、ステイシーたちが働いているのは銀行だったんですね! 銀行の窓口で下ネタを連発していたんですか、ジーナたちは……。

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アログロとステイシー

世界一のローションで肌荒れを起こしたことに落ち込むステイシーは、自分の顔を汚くて醜いと語ります。警官キースは、そんなステイシーを厳しく𠮟りました。

午前3時32分……顔のかゆみでステイシーは眠れずにいました。ステイシーは警官キースと共に眠っていたベッドを抜け出し、洗面所で発疹の出た顔を見つめます。

リビングに行ってテレビをつけると、アログロのCMが流れていました。初回割引でも199ドル99セントと高額なクリームです。

そのCMはまるで、ステイシー個人に語りかけているようでした。銀行で同僚女性に笑われたくないだろう……さあ、ステイシー、望んでいたことだろう……。

あまりの出来事に笑い始めたステイシーですが、テレビはなおもステイシーに語りかけます。同僚たちの仲間に入りたいというステイシーの願いに、揺さぶりをかけてくるのです。

本当にただのクリームですか? 陶器のような肌になれるというだけなら、まだ納得がいきます。しかし、内面まで変えると言われると……そもそも薬事法(アメリカではFDA)違反なのでは?

しかも、大幅に値引きされているであろう初回の値段が199ドル99セント、およそ3万円です。2回目以降がいくらになるのか、考えただけで寒気がします。

それを思えば、自分に合う高額なクリームをプレゼントされた一軍女子たちの喜びようは納得ですね。数万円分が浮いたわけですから……。

クリームの副作用として、気分のむらや関節のこわばり、幻覚、虚無感、意欲低下、個性の喪失、意見をなくし以前の趣味を楽しめなくなるといったものが紹介されていました。

多いです。もはや違法薬物です。人格をコントロールされる薬と言い換えたほうが正しいのではないでしょうか。アログロは一軍女子製造クリームというわけですね。

そして“アログロ男”ですが、見たことがあると思ったら『ダウントン・アビー』のマシューであり、実写版『美女と野獣』のビースト(野獣)でした!

ステイシーは発疹が出てかゆくてたまらないと訴えますが、テレビの中の男は治す箇所が多いからかゆみも強く出るのだと反論します。

外見がすべてであるというアログロ男の言葉に、ステイシーの心は動かされました。電話で追加を注文し、机の上に放り出されていたアログロを手に取ります。

夜が明けてすぐ、箱いっぱいに詰め込まれた28本のアログロが届きました。ステイシーは銀行に病欠の電話をし、アログロを塗り続けます。

真っ赤になって肌をかき続けるステイシーに、警官キースはアログロを塗るのをやめるよう説得します。しかし、ステイシーは聞き入れません。

警官キースは、自分だって“おかしい”側だと語ります。しかし、ステイシーは男と女とは置かれた立場が違うと頑なでした。

ステイシーは、男であれば太っていようが毛深かろうが不細工だろうが老けていようが、日常生活を送ることには支障がないだろうと語ります。

実際問題、肥満、剛毛、顔かたちの不出来、見た目の若さによってジャッジされがちなのは、圧倒的に女性ばかりです。それも主に、同性から……。

今は美容体重を超えてシンデレラ体重が理想とされ、イエローベースは負け組だの、ギャザー顔だの……理想から外れたものはすべて“ダメなもの”として扱われています。

赤とピンクの見分けすら曖昧な男性からしたら、そんな訳の分からないものに振り回されている女性は滑稽に見えるでしょう。

スパッと「私には関係ないこと」「銀行員なのだから誠実に見えればそれでよし」と考えられればいいのですが、ステイシーはそういう人ではありませんでした。

ステイシーは一軍女子として輝いているジーナに憧れ、あんな風に生きられたらいいのにと密かな望みを抱いて生きてきたのです。

明らかに体に悪いことをしているのにアログロを妄信しているステイシーを心配する警官キースにも共感できるだけに、複雑な気分ですね……。

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新たな私

ステイシーの顔はどんどん荒れていきました。しかし、ステイシーは効果が出ているのだと信じてアログロを塗り続けます。

変わりたい気持ちを支えてほしいと言われた警官キースは、アログロをやめさせることを諦めます。その代わり、肌をひっかかないようにと注意するようになりました。

悪化しているだけ、かゆみが強くなるばかり……そう訴えるステイシーに向かって、テレビの中からアログロの宣伝をする男が語りかけてきます。

陰口を言われて傷ついてきて、美人になりたいと強く望むステイシーに、私を信じろと……。新しいステイシーが、今ある肌の下にいるのだと言うのです。

その言葉を受けて、ステイシーが近付いた瞬間――地下室に置いてあるアログロクリームの蓋が一斉に開き、クリームがあふれ出してきました。

怖くなったステイシーは、逃げるように寝室へと戻りました。しかしその後も、クリームはあふれ続けます。そして、そのクリームの中から何かが生まれようとしていました。

ちょっと気になったのですが……同じ家に暮らしていて、食事も共にしていて、同じベッドで眠っていながら、ステイシーと警官キースは友達なんですか?

なんならキースはステイシーに腕枕をしていたんですが、友達なんですか? 体の関係がないから友人、ということなのでしょうか……。

うつらうつらしているときにステイシーが顔をひっかいていることに気付き、むにゃむにゃと鍋つかみを手にはめて寝たらどうかと言う状態が――友達とは?

私から見ると、真にステイシーのことを思いやっているのはキースだけです。他の人たちは、外聞が悪くならない程度にはじき出しているように見えます。

ステイシーの変わりたい、美しくなりたいという気持ちは分からなくもないです。しかし、今の自分にとって価値あるものに目を向けないのはどうかなと思えてきました。

翌日、ステイシーはまた鏡を覗き込んでいました。ついに体の皮がむけ始めたのです。新たな自分が出てくる兆しであろうと感じたステイシーは、顔をほころばせます。

帰宅した警官キースは、昼食を共にしようとステイシーを呼びました。ステイシーの状態は悪化していましたが、本人はこれこそ治る過程だと言い張ります。

現実を見ようとしないステイシーに、警官キースは自分の思いを語りました。しかし、美しくなりたいと望むあまりに自分を追い込むステイシーには、どんな言葉も刃になってしまいます。

自分の外見への不満を爆発させたステイシーは、アログロクリームが置かれている地下室へと向かいました。するとそこには、美しいマネキンのようなものが立っています。

それは、クリームでできた美女でした。ステイシーの真似をするように動く“美女”の手を取ったステイシーは、そのまま“美女”と一体化します。

「君はどこも悪くない。素敵な女性だ。内面も外面も」――ええと、言質が取れたので、警官キースがステイシーに恋心を抱いているのは確定と思っていいですよね?

元のセリフとしては「There’s nothing wrong with you. You are lovely. Inside and out.」です。アメリカではlovelyを友人にも使うそうですが、前後も含めると、かなり重い表現だと思います。

恋慕がない状態で、この言葉を言うものだろうかと……。困ったところはあるけれど、かわいい女性だと思っているんですよね!?

それに対して「“内面”って言うのは、外見が悪いからよね」は、もう受け取り方がゆがみ過ぎていて何も言えません。病院に行った際には精神科も受診してください。

それに対する返事が「You’re lovely everywhere.」ですよ。「すべてが可愛らしい」です。これがホラーじゃなかったらLove so sweetのイントロが流れ出すところです。

そんなキースの大胆な言葉をすべてスルーして、ステイシーはアログロを求めます。もう、とり憑かれてしまっているんですね……。

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新たなステイシー

地下室から上がってきたステイシーは、全身クリームまみれになっていました。その姿を見て警官キースは驚きますが、ステイシーは満面の笑みをたたえています。

ステイシーが正気を失ってしまったのだと思い、警官キースは必死で語りかけます。本来のステイシーは普通ではないけれど素敵な女性なのだと……。

しかし、新たな自分に生まれ変われると信じるステイシーにはどんな言葉も届きません。ステイシーは“彼女”に変身するのだと、警官キースに語りました。

ステイシーは地下室から持ってきたメスを、警官キースの額に突き刺しました。変わらないでいてほしいという警官キースの願いから、解き放たれたいと思ったためです。

警官キースは自らメスを引き抜きます。すると傷口からとめどなく血が流れ出しました。警官キースは助けを求めようと無線を手に取ります。

こうなる気はしていましたが、ついにステイシーは「美しくなりたい」という願いを否定するキースを敵だと認識してしまいましたね……。

キースは、一般的な見方からすれば、正しいことを言っています。しかし長年の悩みに終止符を打とうとしているステイシーにとっては、完全なる間違いなのです。

ステイシーにとっては、どんなに損をさせられても「美しくなりたい」という叶わぬ願いに手を差し伸べてくれたアログロ男こそが正義なんですよね。

キースからすると、今までそんな願いを抱えていることすら知らなかったでしょうから、突然ステイシーが変わってしまったように見えたのだと思います。

しかし、キースがステイシーの魅力だと思っている部分はすべて、ステイシーにとっては劣等感を抱かせる不要な個性だったわけです。

無線で救急車を呼ぼうとしていた警官キースを、ステイシーは背後から斧で殴りつけました。警官キースが完全に動かなくなるまで、何度も何度も……。

足元に倒れている警官キースを気に留めることもなく、血まみれのステイシーは“美女”のもとへと向かいました。“美女”はバスタブの中に入り、もとのクリームへと戻ります。

ステイシーは着ていた服を脱ぎ捨て、クリームで満たされたバスタブへとその身を沈めました。すると、クリームが脈打ち始めます。

様々な剥製が飾られた家の中――裸体にクリームをまとったステイシーがモデルのようにウォーキングをしています。

クリームを拭うと、発疹まみれの皮膚はどこへやら、陶器のような肌が現れました。有頂天になったステイシーは、警官キースに新たな自分を見てもらおうと考えます。

キースと「美しさ」について相容れないからという理由で撲殺しておいて、美しくなった自分を一番に報告しようとするその感覚がもう……。

ステイシーにとって、キースは大切な存在だったのだと思います。しかし、大切だからこそ、美しくなろうとする努力を否定されて激昂したのでしょう。

そこまではいいとして――勢い任せではなく、意思を持って何度も斧を振り下ろしておいて、殺したことをすっかり忘れているというのは……。

望んでいた美しさを手に入れた喜びで、少し前に犯した殺人を忘れていたということでしょうか。

そうなると、思い出してしまいますね。アログロの副作用として、以前の自分に戻ることはできないと言われていたことを……。

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望みを叶えて

ステイシーは警官キースの遺体を引きずり、地下室へと運び込みました。あとは、いつもやっている通りにすればいいのです。

警官キースの内臓を切り取り、代わりに発泡スチロールや綿を入れていくのです。そうすれば、警官キースの姿を保つことができます。

次にステイシーは、ボサボサだった髪を切り、丁寧にメイクをしました。ジーナたち一軍女子が着ているような大胆なワンピースを身にまとい、銀行へと出かけます。

リビングのソファには、剥製になった警官キースが座っています。その剥製に行ってきますと声をかけ、ステイシーは職場であるイースト・サバーバン銀行へと向かいました。

出かけに捨てて行ったゴミの中には、警官キースから取り出した内臓もあります。その袋が破れて中が見えていることにも気付かず、ステイシーは出かけていったのでした。

ステイシーの「美女になった」という感覚が事実なのか否か、銀行に向かえば分かりますね……。

同じ女性として思うこととしては、なんらかの力で急に美人になることがあったとしても、急にメイクの腕が上がることなどあり得ません。

もちろん、そもそも持ち合わせていないワンピースを持っていることにも違和感があります。もしかしたら、すべてステイシーの妄想なのかもしれません。

しかし、もし妄想なら……美人に大変身して職場の皆を驚かせる、というところまでが妄想ということもあり得ます。

本当にクリームの中に身を沈めたのだとしたら、アレルギー症状を起こしているステイシーにとっては自殺行為です。バスタブの中で命を落としていることも考えられます。

出勤してきたステイシーを見て、守衛も同僚たちも目を丸くしています。一軍女子たちは、美しくなったステイシーを「まるで天使」と称します。

何をしたのかと問うジーナに、ステイシーは髪を切ったのだと笑いました。ジーナから美しくなったと言われ、ステイシーは満足げに笑います。

自分の周りに集まってきた一軍女子たちに、ステイシーは話題を提供します。ドナルドが飲酒運転で捕まった……というくだらない噂話です。

ステイシーはこうして、一軍女子たちの中心に立つ人物となったのです。まるで天にも昇るような感覚でした。

楽しげにカラカラと笑うステイシーですが、その笑い声の途中、まるで本来の自分が現れたかのようにふっと表情が曇ります。しかし、また一軍女子の顔で笑い始めるのでした――。

HAPPY END

……と言っていいのでしょうか。ステイシーは望んだ通り、一軍女子になることができました――という終わり方でした。

そもそも、このお話でのアイテムは“リモコン”だと最初に示されています。「解剖」では“録音装置”、「墓場のネズミ」では“霊園”が示されていました。

つまり、物語において最も重要なアイテムはクリームや剥製ではなく、リモコンなのです。リモコン――リモートコントロール――遠隔操作、ですね。

ステイシーはリモコンを使ってテレビのチャンネルを変えているつもりでしたが、実際には、アログロ男によって生き方をねじ曲げられ一軍女子になるよう遠隔操作されていたのです。

おそらく、一軍女子たちは大なり小なりアログロ男に操作されているのでしょう。外見を飾り立て、どうでもいい物事に時間を費やすように……。

一方で、違う見方もできます。最後のシーンで、ステイシーは黄金の光に包まれながら浮かび上がっていました。これは、死を迎えたシーンでよく見る表現です。

本来のステイシーが死んでしまったという表現なのか……それとも、すべて死に際のステイシーの妄想で、ステイシーは死んだという表現なのか……。

どちらを意味しているのかは分かりません。しかし、どちらにしろ元のステイシーはもう戻ってきません。アログロ男によって、本来のステイシーは殺されたのです。

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『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』「外見」まとめ

ステイシーはいわゆるスクールカースト最下層にいる女子です。底辺から、頂点にいる一軍女子を見上げてまぶしく思っている女子でした。

化粧が苦手なことも、おしゃれに疎いことも、ホラー映画が好きで、狩猟や剥製作りが得意なことも、個性ではなく欠点として捉えていたようです。

人にはそれぞれ個性がありますが、それを長所とするか欠点とするか、それはその人自身の判断によります。欠点であると決めつけたのはステイシー自身なのです。

そこにつけこんだのがアログロ男でした。ステイシーは一軍女子に対する憧れを利用され、アログロによって本来の個性を奪われたのです。

ステイシーが幸せになったのか不幸になったのか、それは分かりません。おそらく、アログロによって変わってしまったステイシー自身にも分からないのでしょう。

※トップ画像はNetflixから引用いたしました。

ミヅチ

ホラー好きのネタバレブロガーです。ダークファンタジーもミステリも好きです。Netflixオリジナルドラマに首ったけです。

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