Netflixドラマ『特別捜査部Q』エピソード9【最終回】ネタバレ感想

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Netflixオリジナルドラマ『特別捜査部Q』エピソード9【最終回】は、リンガード検事失踪事件がついに終結する物語です。

ミヅチ
ミヅチ

誘拐犯の正体がジェニングス家の母アルサと次男ライルであることは分かりました。最終話では、その過去が描かれます!

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Netflixオリジナルドラマ『特別捜査部Q』エピソード9【最終回】情報

公開日2025年5月29日
制作国イギリス
ジャンルミステリー、犯罪、サスペンス
注意書きR-16+
暴力、言葉づかい
上映時間71分

『特別捜査部Q』エピソード9【最終回】主なキャスト・スタッフ

キャスト

カール・マーク
殺人犯に頭部を撃たれた刑事/主任警部
マシュー・グード
『ザ・クラウン』『家をめぐる3つの物語』
メリット・リンガード
頑固な女性検察官/首席検事
クロエ・ピリー
『クイーンズ・ギャンビット』
ジェームズ・ハーディ
マーク刑事と共に銃撃を受けた刑事/警部
ジェイミー・シーヴァス
スティーブン・バーンズ
リンガード検察官の上司/法務長官
マーク・ボナー
アクラム・サリム
新部署に送られたIT担当の警察官
アレクセイ・メンヴェロフ
『クイーンズ・ギャンビット』
ローズ・ディクソン
士官候補生の女性
リア・バーン
モイラ・ジェイコブソン
マーク刑事の上司/警視正
ケイト・ディッキー
クレア・マーシュ
シャーリー・ヘンダーソン
シャーリー・ヘンダーソン
『Okja/オクジャ』
レイチェル・アーヴィング
カールの担当精神科医(代理)
ケリー・マクドナルド
『ブラック・ミラー』『Giri / Haji』

スタッフ

原作ユッシ・エーズラ・オールスン
小説『特捜部Q』シリーズ
監督スコット・フランク
脚本スコット・フランク

『特別捜査部Q』エピソード9【最終回】あらすじ

新部署”Q”のメンバー皆で、ゴッドヘイブン少年院で撮影されたライル・ジェニングスの映像を見ました。

ライルはどこにいても暴力を振るわれる被害者だったため、同じ少年院にいたサム・ヘイグに痛めつけられても平然としています。

そこで分かったのは、ライルは兄ハリーと共に母アルサから罰を受けていたことです。それが行われるのは、高圧室の中でした。

ライルが異常な生活をしていたことが分かり、ライルについて調べる班と、現地に向かってライル本人を探す班とに分かれて行動することになります。

ここから先はネタバレがあります!

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『特別捜査部Q』エピソード9【最終回】ネタバレと感想・考察

ライル・ジェニングス

ゴッドヘイブン少年院には、10代のライル・ジェニングスの映像がありました。ライルはサム・ヘイグから暴行を受けた直後でしたが、ショックは受けていないようです。

それもそのはず。ライルは少年院だけでなく、学校でも家でも暴力を振るわれていたのです。そしてそれは、クソガキである自分たちにとって当然のことだと考えていました。

ライルと兄ハリーは、母アルサから日常的に虐待を受けていました。兄弟にとって最悪なのは”チャンバー”――”hyperbar”に入れられることでした。

それは、今現在メリット・リンガード検事が監禁されている高圧室のことです。亡き父が仕事用に使っていたものを、アルサは子どもたちへの罰として転用したのです。

ハリーが死んだあとも、ライルはハリーを近くに感じていました。それも幻覚としてではなく、実際に隣にいるものとして捉えていました。

サム・ヘイグは自分を兄と呼び、しつこく後をつけてくるライルを疎ましがっていました。しかしライルは、サムのことをハリーだと信じ込んでいたようです。

自分自身で「ハリーが死んだあと」と語りながら、ハリーがまだ生きているように振る舞うライルは常軌を逸しているように見えました。

リンガード検事の行方を追う新部署”Q”の面々は、沈痛な面持ちで映像を見つめます。そこで退院したジェームズ・ハーディ刑事が口を開きました。

ライルは10年前に出所し、ランプトン精神病院のEPD――パーソナリティ障害――棟に移りました。しかし、それ以降は行方知れずとなっています。

6年前、モル島の向こうにあるロンゲイに”L・ジェニングス”という人物がいました。職場を含めてすべての書類にその名を記していたため、その人物を調査することになります。

サム・ヘイグ(本人)と、サム・ヘイグを名乗る偽物(ライル)との関係性が明らかになりました。

彼らは同時期にゴッドヘイブン少年院にいました。兄ハリーを喪って精神的に不安定になっていたライルは、サムをハリーだと思い込んで弟として接していたようです。

不良少年サムは、そんなライルを遠ざけるために暴力を振るったのです。しかし、母アルサからの虐待に慣れていたライルは、サムへの執着を捨てませんでした。

私が思うに、ライルはハリーがいなくなった世界を生きることに耐えられなかったのだと思います。だからこそ、ハリーと似たような存在を探します。

けれども、代役として選んだサムからは拒絶されてしまいました。その経験から、ライルはハリーを外に求めることをやめ、自分の中に生かすことにしたのではないでしょうか。

ところが、母アルサが語った通り、ハリーは愚かでしたが美しく思えるほどまっすぐな人でした。小賢しく立ち回るライルとは対極の存在です。

そこで、ハリーを演じることは諦め、ハリーと似た雰囲気を持ったサムを演じることにしたのではないか……そう感じました。

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リース・パーク事件

モイラ・ジェイコブソン警視正はアラクノフォビア――クモ恐怖症についての説明を聞きながら書類に目を通していました。

リース・パーク226で起きた事件についての事件報告書です。そこに事件を担当する刑事がやってきました。そして、死亡したアンダーソン巡査についての事実を伝えます。

アンダーソン巡査が語った、被害者の娘から安否確認の依頼があったという話は嘘でした。そもそも被害者に娘などいなかったのです。

モイラ警視正は捜査に進展がないこと、そして当事者である主任警部カール・マーク刑事のほうが適役と思われること……それを脅し文句として担当刑事にぶつけました。

リンガード検事失踪事件についての事件は一歩一歩ではありますが、前に進んでいます。ところが、リース・パーク事件はまるで進展がないのです。

女性として初めて警視正まで上り詰めたモイラ警視正にとっては、このままリース・パーク事件が迷宮入りすることは避けたい事態なんですよね。

とはいえ、もし”Q”がリンガード検事失踪事件を解決すれば、世間の目は一斉にそちらを向きます。その間にこっそり捜査終了してしまえばいいのでは……とも思ってしまいます。

そして、クモ恐怖症についてですが――クモのおもちゃを手に乗せて訓練のようなものをしていたところを見ると、モイラ警視正の持つ特性なのでしょうか?

現場に行く立場だと、クモに遭遇することは少なくないと思われます。それを避けるために、モイラ警視正は現場に行かなくていい立場へと必死で昇進したのでしょうか……。

緊急派遣センター

モル島の地元警察であるカニンガム巡査は、ジェニングス家を訪ねます。母アルサが対応し、生存確認以外の目的があるだろうと問いました。

本土の緊急派遣センターから依頼があったのです。ジェニングス家の位置からアルサのスマートフォンを通じて通報があったためでした。

アルサは言い訳をしますが、その顔には大きなアザが残っています。そのことについても、ゴミ捨てに行くときに転んだのだと言い訳をしました。

そこでカニンガム巡査は本音を切り出します。行方不明になっているライルが戻ってきて、母であるアルサを傷つけているのではと心配しているのです。

アルサは笑顔でカニンガム巡査を見送りますが、その心中は穏やかではありませんでした。亡き息子ハリーの死因を作った警察が、今度はライルに目をつけている……。

やはりリンガード検事の命懸けの通報は、きちんと届いていました。それは地元警察へと伝えられ、ジェニングス家へと刑事がやってきます。

ところが、担当したのは昔、アルサの息子ハリーの強盗事件を捜査していたカニンガム巡査でした。つまり、ハリーが死んだ原因を作ってしまったひとりです。

警察に追い詰められたハリーが自殺したこともあり、カニンガム巡査はアルサに強くは出られません。その上、アルサの凶暴性にはまるで気付いていませんでした。

あくまで素行が悪いのは強盗事件を起こした亡き息子ハリーと、少年院を出て精神病院に入るも脱走したライルだと思っているのです。

十分に成長して体格のいい男性になったハリーやライルを見たことがあれば、彼らが児童虐待を受けていた頃のままの精神状態でいるとは考えにくいのでしょうね……。

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カニンガム巡査

ジェニングス家を後にしたカニンガム巡査ですが、すぐに車を停めてスマートフォンを取り出します。そこには、通報時の音声が送られてきていました。

女性の叫び声は、どこかに反響しているように聞こえます。海辺の廃虚となった施設には、音を響かせそうなものがたくさんありました。

カニンガム巡査はパトカーを降りると、周囲を探り始めます。その頃、リンガード検事は上がり続ける温度に耐えきれなくなっていました。

少しでも涼を感じようと、リンガード検事はシャワーを出します。ふと振り返って窓の外を見ると、そこには――調査をしていたカニンガム巡査の姿がありました。

リンガード検事は必死に助けを求めますが、カニンガム巡査は目の前の現実を受け入れられません。すると、監視室にいたライルが下りてきて会話を始めました。

マーク刑事たちのように都会で一課の刑事として働いている警察官と、カニンガム巡査のように地元警察で働くお巡りさんとはまったく違うんですね。

カニンガム巡査は素行の悪い少年少女とも交流を持ち、人間対人間として接することで、悪事に手を染めないよう、そうなっても更生できるように心がけているのでしょう。

だからこそ、リンガード検事と出会ったときに最初に出た感情が”驚き”だったのだと思います。

カニンガム巡査は、たとえ兄ハリーが強盗犯の疑いをかけられたまま自殺を図っていても、ライル本人が少年院に入ったことがあっても、信じる気持ちを捨ててはいなかったのです。

そういう優しさを息子コリンにも向けてあげてほしかったですね。異性愛者で犯罪を繰り返すライルより、同性愛者で真面目な警察官コリンのほうがずっといい人ですよ……。

ライルの言動

ライルは4年前、リンガード検事が海に落ちたと語ったのです。それを信じていたカニンガム巡査は、嘘をついたライルに対する怒りを爆発させました。

カニンガム巡査は、なんとかしてライルを説得しようとします。けれども、ライルはその語りかけには応じませんでした。

窓の外で、カニンガム巡査は何度も殴りつけられて息絶えました。やっと現れた希望が目の前でついえて、リンガード検事はへたりこむのでした。

その頃、”Q”にはリンガード検事の弟ウィリアムと家政婦クレア・マーシュがいました。ウィリアムはハリーの写真を見ても、表情を変えません。

事件当夜――自室にいたウィリアムは、家の中で物音がすることに気付きました。ホッケーのスティックを持ち、家の中を荒らしまわった犯人を探したのです。

背後の人影に気付いたウィリアムは、思い切りスティックを振りました。すると、頭をぶたれたハリーが倒れ込みます。ウィリアムはハリーが犯人だったことに驚きました。

ライルは、最初は会話をする姿勢を見せました。けれども、それはカニンガム巡査に隠蔽を持ちかけるためだったのです。

リンガード検事失踪事件の再捜査は、この場所さえ見つからなければ解決しません。またしても未解決で終わるのです。

そしてカニンガム巡査にとって、地元で起きていたことに4年間も気付かなかったとなれば、周囲の目は厳しくなることが容易に想像できます。

それを避けるためにも、見なかったふりをしてくれというわけです。しかし、カニンガム巡査は古風なお巡りさんです。そういった理屈で動くタイプではありません。

人情派のカニンガム巡査にとっては、ライルの罪を見過ごしてしまっていたことこそが問題なのです。また、母アルサのことも心配だったのでしょう。

ライルがまた殺人を犯しているとき、ウィリアムは”Q”へと証言をしにきていました。

言語障害のあるウィリアムですが、伝えることが難しいだけで、汲み取る側の努力次第で事実は見えてくることは分かっています。

そして、ここでやっと……ウィリアムから見た事件当夜のことが分かってくるようですね。ここにこそ、事件の事実と真実が隠されているはずです。

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暴行犯

カニンガム巡査はハリーは素行不良だったと語っていました。ところが調べてみると、ハリーには犯罪歴などありませんでした。

犯罪歴があったのは弟ライルのほうでした。そして、ライルは事件直後、ゴッドヘイブン少年院に送られています。

ウィリアムに殴る蹴るの暴行を加えたのは、ハリーではなくライルだったのです。ライルは兄を助けるため、ウィリアムが動かなくなるまで痛めつけました。

僕がいなければハリーは死んでいた――少年院でそう語っていた理由は、ここにありました。ウィリアムからハリーを守るために、ライルは凶行に及んだのです。

ハリーは言うことを聞かないライルを止めるため、暴力に訴えました。気を失ったライルを引きずり、ハリーは車で去って行ったのでした……。

ウィリアムは強盗犯に脅えていただけで、ハリーを殺そうとは思っていませんでした。むしろ、ハリーだと分かって驚き、動きが止まっていました。

冷静に状況判断をしていれば、ウィリアムの真意に気付けたはずです。しかし、ライルには最初からそのつもりがなかったように感じました。

ライルは、ハリーが恋人と一緒に島を出ていこうとしていることに気付いていました。けれども、ただの強盗ではなく暴行や殺人もしたとなれば、島を出ることは叶いません。

これは私の推測ですが、ライルはハリーを島に縛り付けておくために、わざと大事になるようにと……ウィリアムを瀕死になるまで殴ったのではないでしょうか。

ハリーと違って、ライルは賢い子でした。まっすぐな恋愛感情のために犯罪に走ったハリーを見て、ライルはハリーの逃げ道を塞ぐことを選んだのだと思います。

しかし、その顛末は悲惨なものでした。ハリーは夢を絶たれて死んでしまい、ライルは慕っていた兄を永遠に喪うことになってしまったのです。

普通ならば、リンガード検事――メリットは、兄に犯罪をそそのかし、遠くに連れ去ろうとした憎むべき相手となるところですよね。

ところが、亡きハリーをその身に宿そうとしたライルにとっては、メリットは別の役割を持つ存在でした。メリットを自分の恋人にすることで、完全にハリーに成り代われるのです。

恐怖とカワウ

過去の恐怖を思い出したウィリアムは暴れ始めます。それを見た事務担当アクラム・サリムは、失踪事件当時にウィリアムが暴れた理由に見当がつきました。

ウィリアムはあの日――船にいるライルを見たのです。そこで恐怖を感じたウィリアムは暴れ、姉であるリンガード検事を殴ってしまいました。

続けてローズ・ディクソン刑事が、カワウのマークがついた帽子をかぶった男について尋ねます。ウィリアムは、それもライルだったと認めました。

モイラ警視正は、言語障害を持つウィリアムの”証言”を疑いながらも、現地捜査を許可しました。モル島に向かうマーク刑事とサリムに、カニンガム巡査行方不明の一報が入ります。

カニンガム巡査は、ハリーが不良少年だったと話しました。けれども、それは嘘でした。マーク刑事は、カニンガム巡査が善良な少年を死なせてしまった罪を受け止めきれなかったのだと考えます。

サリムは8話の終わり際、ウィリアムを殴ったのはハリーではなくライルだと言っていました。

突然とんでもないことを言い出したので何事かと思いましたが、サリムはすでに事実にたどり着いていたんですね。

ハリーに犯罪歴がないとすれば、逃げるためにウィリアムを殴りつけたとしても、障害が残るまで重度のケガを負わせることは考えにくいことです。

実際、ハリーはライルを静かにさせるときにも、後遺症が残るようなことはしませんでした。ただ意識が飛ぶまで素手で殴っただけです。

けれども、本当の犯人がライルだとすれば別です。ライルは少年院に送られる程度の複数に渡る犯罪歴があり、暴力の振るい方も過激だったと考えられます。

そういったことから、サリムはすでに”強盗犯はハリー”だが”暴行犯はライル”だという仮説を立てていたのでしょう。

そして、その一言がゴッドヘイブン少年院のテリー・ダンディ教官から訂正されなかったことで、推測が事実だったと分かったのです。

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サム・ヘイグの死

ゴッドヘイブン少年院での日々を記事にすると決めたサム・ヘイグは、ライルを訪ねました。巻き毛でひげをたくわえた二人は、まるで兄弟のようにそっくりな見た目です。

そこでライルは、サムに取材対象に近づく方法を聞き出しました。また誰かをストーカーをするつもりかと、サムは冗談を言います。

後日、崖のある公園を訪れたサムは、高所恐怖症のはずのライルが崖の上に向かうのを見て後をつけます。ライルは気付いていないふりをして、人目の届かないところへとサムを誘い出しました。

ライルは突然サムの顔を石で殴りつけます。サムの意識がなくなったことを確認したライルは、人目を気にしつつ工作を始めました。

最初に、自分が持ってきた荷物の中からクライミングに使う道具を取り出し、サムの体に取り付けていきます。そしてサムが意識を取り戻す前に、崖の下へと突き落としました。

最後に、サムが持っていた荷物をサムの車の後部座席に投げ入れます。こうした工作が功を奏し、サムは事故死したという結論になったのでした。

以前、マーク刑事は疑問を呈していました。クライミングに慣れていて、自分がクライミングに要する時間を正確に把握できるサムが、なぜ時間切れになるまで登っていたのか、と……。

前夜に友人の妻と不倫してしまったことで、情緒不安定になっていたのでは――という考えで一旦はまとまっていましたが、これは誤りでした。

サムを殺したのは、ライルだったのです。それも、クライミング中に死んだと見せかけるため、凶器は石にして、偽装工作のための準備を進めていました。

実際には、サムは明るいうちにクライミングを終えて、公園を出ようとしていました。しかし、そこに姿を見せたライルが気になって、あとを追ってしまったのです。

それこそがライルの罠だったのです。おそらくサムが崖にいたのは早朝で、人通りはほとんどなかったものと思われます。殺人にはうってつけの状況でした。

では、なぜライルはサムを殺したのか――私は、ゴッドヘイブン少年院でのことを記事にされては困るからだと思いました。

リンガード検事を誘拐・監禁することは、母アルサとライルとの悲願です。けれども、それを実行するには慎重にならなければなりません。

表向きには不良だったのは兄ハリーだとされており、本当に罪深き少年ライルには目が向いていませんでした。しかし、記事が出てしまえば話は変わります。

ライルはサム・ヘイグを騙ってリンガード検事に近づき、誘拐するチャンスを得たところで、用済みとなったサムを殺したのではないでしょうか。

罪と罰

圧をかけられ続けて、もはやリンガード検事の体は限界に近づいていました。上半身を起こしておくことすら、つらく苦しい状態です。

水が欲しいと訴えるメリットの言葉を無視して、アルサとライルとは脱出の準備を進めていました。カニンガム巡査を殺してしまった今、すぐにでも逃げる必要があるのです。

二人は、圧力の電源以外をすべて切って、その場を離れるつもりでした。リンガード検事は、高圧室の窓から、じっと作業を進めるライルを見つめます。

この先、リンガード検事の選ぶ道は二つにひとつだとライルは語りました。極度の高気圧の中でゆっくり窒息死するか、窓を壊して急激な減圧を引き起こし爆死するか――。

兄ハリーが自分ではなく恋人メリット――リンガード検事のことばかり考えていたことを、ライルは疎ましく思っていました。その思いが死を招いたのだと、ライルは信じ込んでいるのです。

ハリーに強盗をさせたことも、死なせたことも、ウィリアムが障害を負ったことも……すべてリンガード検事のせいだと、ライルは語りました。

ライルは母アルサからの”教育”により、自分たち兄弟はクソガキだと信じ込まされています。罰を受けるに相応しい存在というわけです。

しかし一方で、兄ハリーは美しく、弟ライルは賢いという評価も信じています。アルサの言葉はすべて正しく、そこに疑う余地などないのでしょう。

だからこそアルサが「あのビッチがすべて悪いのだ」と言えば、そうに違いないと思うのです。小さな子どもが親を万能な神様のように感じているのと同じように……。

どんな悪事に手を染めるときも「これは〇〇のせい」「自分のせいじゃない」と思っていたのだとすれば、ライルの精神が妙に安定している理由が分かりますね。

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ライルの犯罪歴

ローズは、ゴッドヘイブン少年院の資料を手に入れて、在宅勤務中のハーディ刑事と捜査を続けています。

ライルは8歳のとき、パレード中にほえた近所の犬を殺しました。しかし逮捕はされず、精神科受診で済んでいます。

初めて少年院に入ったときの理由は、12歳のときの同級生へのストーキングでした。夜中に同級生の家に入り込み、床で寝ていたのです。

母アルサは、父クライヴの死後19ヶ月間にわたり精神病院に入っていました。しかし、その場には14歳のライルもおり、たばこによる火事の”犯人”はライルかもしれません。

そして、アルサはハリーの死後に正気を失い、ライルを長く高圧室に閉じ込め精神科送りとなっていました。

その後、15歳のライルは他の少年を高圧室に入れて、いつ気を失うか実験しました。その高圧室に、今度はリンガード検事が入れられているのかもしれないと二人は考えます。

8歳のときに犬を殺した際に、ライルがきちんと訴えられて罪を認め、罰を受けていれば、こんな未来にはならなかったのかもしれません。

よく言われることですが、サイコパスなどは最初から殺人を犯すのではなく、小さな生き物から始まってだんだん対象が大きくなっていくんですよね。

最初に問題になった犬のことがもみ消された経験が、ライルに悪い意味での学習を与えてしまったのでしょう。

確かに、狭い島での出来事です。皆が顔見知りの空間の中で、犬を殺されたからと隣人を訴えることのリスクは想像に難くないですよね。

それでものちに少年院に入ることにはなったのですが、あまり効果はなかったようです。8歳から学んだ「一時期だけ大人しくしていれば大丈夫」という経験があったためでしょうか……。

そして、ハリーの「母が父を殺した」という思い込みは間違いだったようです。何がきっかけかは分かりませんが、父が邪魔になったライルが手を下したのだと考えられます。

その直後に母アルサがライルを高圧室に入れたのは、精神を病んだからではなく、父殺しという罪を犯したライルに反省を促すためだったのではないでしょうか。

モル島にて

モル島はかつて、北海の石油開発の主要エリアでした。10億ポンドほどの投資を受けましたが、その未来は直前で奪われてしまったのです。

道中、サリムは初めて妻が亡くなっていることをマーク刑事に告げました。娘たちを医者にするためでしたが、どちらの娘も理科が苦手で望みは薄そうです。

ジェニングス家のあたりに到着した二人は、車を降りて捜査を始めました。そこには建設されるはずだった施設に使われる大きな部品が転がっています。

ジェニングス家の母子は見つかりません。そこで手がかりを探すためにと、マーク刑事は独断で家の中を捜索することに決めました。

けれども、固く閉ざされた戸を開くことはできませんでした。家の中で母子が銃を構えていることなど知らず、マーク刑事は肩をすくめます。

そんなとき、サリムがあるものを見つけました。破れた大きなのぼりに、リンガード検事の弟ウィリアムが目撃したカワウのマークが入っていたのです。

ジェニングス家は巨額が投資された施設で働き、裕福な生活を送る予定の島民だったのでしょう。けれども、その夢が叶うことはありませんでした。

皆が豊かな生活を送れるようになるはずだったモル島には、貧乏な漁師たちが残され、誰も責任を取ってはくれなかったのです。

見捨てられた人々と言うことができるでしょう。裕福になる術は残されておらず、皆その日暮らしだったのではないでしょうか。

ハリーは分かりませんが、ライルほどの頭があれば、その生活から抜け出すことはできたはずです。

けれども、アルサからの歪んだ教育や、繋がりが強すぎる小さな島育ちのために犯罪がなかったことになるという境遇により、ライルはより良い人生を得る機会を逃してしまいました。

火事のときにアルサも一緒に亡くなっていればよかったのか――というと、それも違うのでしょう。

アルサがいてもいなくても、ハリーとライルとに施された異常な教育は根を張り続けます。特にその影響を大きく受けたライルには、逃げる術などなかったと思われます。

ライルもある視点から見れば被害者なのだということは、忘れずにいたいですね。

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総力戦

ハリーとライルとの父クライヴの会社”ショアバード・オーシャン・システムズ”のロゴの”O”は……丸の中にカワウのマークが入ったものでした。

ローズは、モル島で仲良くなったカニンガム巡査の息子コリンから、4年前にジェニングス家近辺が立入禁止になったと聞き出します。

ハーディ刑事が高圧室について調べる中、マーク刑事とサリムは立入禁止区域へと入っていきます。そこで見つけたのは、カニンガム巡査の乗ってきたパトカーでした。

息子コリンが10分毎にかけているスマートフォンの着信音が、トランクの中から聞こえてきます。そこには、顔をつぶされて亡くなったカニンガム巡査の遺体もありました。

二人は、ライルが身支度をしていた部屋に入ります。そして、高圧室からの中継が映された古めかしいテレビを見つけました。

コミュニケーション能力の高いローズは、今までやってきた捜査の中で知り合い仲良くなった人々から情報を引き出します。

体は不自由でも目と頭と勘とがよく働くハーディ刑事は、その体にむち打ちながらできる限りの情報収集を進めていきます。

そして行動力が服を着て歩いているようなマーク刑事は、どんどん先へと進み、危険もかえりみず事実を求めます。

最後に、ある程度この事件の真の姿が想像できているサリムは、冷静に一歩引いて物事を観察しています。怖いのは、いざというときに最も行動力があるのはサリムだということでしょうか。

しかし、そんなサリムの推理を待つことなく、リンガード検事の保護を最優先にマーク刑事は突っ走っていきます。

救出へ

リンガード検事は目を開けていることも難しくなっています。その目の前には、昔の自分、昔のハリー、昔のライルが現れては消えていきました。

そのとき、突然ノック音と声が聞こえてきました。マーク刑事とサリムとが高圧室を見つけたのです。けれども、二人はどうやって装置を止めたらいいのかが分かりません。

高圧室の外から延々と流れ続けるアナウンスを聞いて、マーク刑事は監視室の存在に気付きます。サリムはまず、アナウンスのスイッチを切りました。

ハーディ刑事は、高圧室を開けたらリンガード検事が死ぬと告げ、何もするなとマーク刑事に指示します。現在は7.5気圧、9気圧になると命の危険があるのです。

開けるのではなく、圧力を安定させるようハーディ刑事は伝えました。海軍や沿岸警備隊が持つ高圧担架で救助されるまでの15分あまり、圧力を制御することが重要です。

ハーディ刑事はこの短い間に、高圧室の中に人が監禁されているとして、どのような救出方法があるかを資料を読み込んで考えていたんですね。

高圧室のシステムについて理解するだけでなく、救助するときに何が使えるのかを調べるところまでやろうと思うと、1時間くらいはかかるのが普通でしょうが……。

刑事の勘だけでどんどん進んでいくマーク刑事ですが、さすがに自分が理解できない装置の前では踏みとどまります。F〇ckと連呼しながらですが……。

サリムは冷静に状況を見て、ハーディ刑事に必要な情報を口頭で伝えています。本当にすごいことだと思うのですが、さらっと流されるシーンなんですよね。

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家族の結末

二人が圧力を安定させようとレバーを探しているとき、ショットガンを構えたライルが現れました。思わずサリムの前に出たマーク刑事は撃たれ、サリムと共に倒れ込みました。

サリムは白目をむいて倒れていましたが、リンガード検事の叫び声にライルが反応した瞬間、動き出します。隠し持っていた小さなバタフライナイフを投げて、ライルの首元を切ったのです。

そして銃口をつかんだサリムは、そのまま銃を奪います。取り返しに襲い来るライルの体をマーク刑事が蹴り飛ばし、サリムが頭を撃ち抜きました。

左上腕を撃たれたマーク刑事は、傷を押さえながら立ち上がります。ゆっくりとレバーを回して圧力を変えると、高圧室の中に入れるようになりました。

リンガード検事を救出した二人は、警官が集まる海岸にたたずみます。父の遺体を見て沈んだ顔をするコリン警察官には、声をかけられませんでした。

モイラ警視正に連れられてヘリコプターでモル島にやってきたウィリアムは、救出されたリンガード検事へと駆け寄りました。

高圧担架の中から弟ウィリアムの姿を確認したリンガード検事は、細めていた目を見開きます。ウィリアムが生きていたことが、何よりの希望でした。

車で逃走を図ったライルの母アルサでしたが、目の前に刑事が現れて手を振ってきます。手元にあるハンドガンに手を伸ばしたアルサは、ふっとほほえみ自らの頭を撃ち抜くのでした。

暴力担当のライルでしたが……サリムは戦地になっている治安のとても悪い国で警察官として働いてきた経験があります。到底かなう相手ではありませんでした。

一般人相手ならば確実に仕留められるライルでも、サリムはもちろん、いざというときに仲間をかばう動きができるマーク刑事にすら、かなわなかったのです。

こういった展開になったとき、母アルサはどう動くのだろうかと考えていました。ライルが格闘中に亡くなることはある程度予想できるため、アルサのほうが気になったのです。

ライルに対しても、亡きハリーに向けるほどではなくとも愛情があれば、その死を悼む様子が見られるだろうと期待していました。

しかし、そうはなりませんでした。ライルはいつかダメになる手足くらいにしか思っていなかったのだと思います。

今までの口ぶりから分かる通り、美しい息子ハリーは愛する対象だけれども、過ちを犯してばかりで反省もしないライルは”使い勝手のいい賢い子”でしかなかったのです。

そんな哀しい母子の姿を見せられた一方、弟ウィリアムが死んだと聞かされて生きる希望を失っていたリンガード検事には、一筋の光が差し込みました。

父に対する愛情はまったくないけれど、弟への思いは失われていなかったのです。ウィリアムを傷つけられたことは、生涯の不覚だったのでしょう。

出来が悪い姉でも愛してくれた弟だからこそ、その弟が世間的に出来が悪い状態になってしまっても愛情を注げたのだと、私は思います。

事件当夜、本当に自分を愛してくれていたのは誰だったのかを、リンガード検事は知ったのだと思います。

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“Q”の未来

かつてマーク刑事の担当カウンセラー代理だったレイチェル・アーヴィングが、マーク刑事の自宅を訪ねていました。

血の繋がらない息子ジャスパーは、テニスボール療法が気に入ったようです。またしても撃たれたマーク刑事を皆が心配しますが、本人は語ることを避けます。

3ヶ月後――退院したリンガード検事が署を訪ねました。けれどもマーク刑事は休暇中で、再会を望むリンガード検事は残念そうでした。

リンガード検事は弟ウィリアムと共にモル島に戻り、父ジェイミーと共に過ごすことを決めたそうです。

当のマーク刑事はというと、フィンチ氏の協力者となったスティーブン・バーンズ法務長官を訪ねていました。その過去を黙っている代償にと、要求をつきつけにきたのです。

要求は、予算を倍額にすることと、サリムを昇格させること、新しい車を手配することでした。バーンズ法務長官は、表情を変えずに努力すると返します。

その頃、リンガード検事は誰もいない”Q”に入り、捜査資料が貼られたボードを見ていました。それまでの苦労が垣間見える資料でした。

署に戻ったマーク刑事と、去り際のリンガード検事がすれ違います。マーク刑事は気付きましたが、声をかけることはしませんでした。

サリムとローズとが出勤してきます。それに遅れて、両手で杖をつきながらハーディ刑事も現れました。モイラ警視正は”Q”との連絡役をハーディ刑事に任せることを伝えます。

署の仲間たちにあたたかく迎えられて喜んでいたハーディ刑事でしたが、いざ地下にやってきて驚きます。それは、エレベーターのすぐ前に階段があったためでした……。

レイチェルは、ストーカーされるくらいならば自分のタイミングでマーク刑事の自宅を訪ねるほうがいいと考えたのかもしれません。

マーク刑事の血が繋がらない息子ジャスパーにもカウンセリングは必要ですし、隣人マーシュは喜んでいるようでしたね。

皆から心配されているマーク刑事ですが、そんな周囲の気持ちは関係ないとばかりに、半休を取って外出します。

モイラ警視正が”Q”に使われるはずの経費をどれほど使い込んだのか気になっていましたが、大胆にも半分遣っていたんですね。

せっかくバーンズ法務長官の弱みを握ったのだから最大限利用してやろうということでしょう。完全なる脅しですが、立場があるため断れないバーンズ法務長官がかわいそうとも思いません。

そしてマーク刑事は、終わった事件の関係者に関わるつもりはないようですね。刑事と関わらないことが何よりの幸せだと、分かっているのかもしれません。

せっかくハーディ刑事が職場に復活したことですし、シーズン2も見てみたいですね!

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『特別捜査部Q』エピソード9【最終回】まとめ

ライルも、母アルサも、兄ハリーを喪ったあと何かが壊れてしまったのかもしれませんね。両者共にそれ以前から異常な部分がありますが、加速したように思えます。

アルサは罪を犯した息子を罰するため、高圧室を用いていました。ハリーがどう思っていたのかは分かりませんが、ライルはその罰を当然のことだと受け止めていました

ハリーは、おかしいのはアルサで、ライルはその被害者だと信じ込んでいたのでしょう。賢い子だから、あんなおかしな理論に屈するわけがないと思っていたのかもしれません。

しかし、事実は違いました。真に人道を踏み外していたのはライルで、アルサは過激なやり方を好むだけで好き嫌いや善悪の判断には、それなりに納得できる筋がありました。

ライルは自分が任されたことを遂行するため、邪魔になるものはすべて排除するだけです。指示する母が言うことはすべて正しいと思っていたようです。

そんな歪んだ母子関係に巻き込まれてしまったのが、リンガード姉弟にとって最大の不幸だったのでしょう。

アルサはすべての罪をリンガード検事に押し付け、罰を与えることを生きがいにしてしまいました。愛する息子ハリーを奪った愚かな恋人を痛めつけることでしか、満たされない部分があったのでしょう。

最終的に、歪んだ母子はどちらも命を落とし、4年間離れていてもお互いを思い合っていた姉弟は父と共にやり直すチャンスを得られました。

入り組んだ話で、過去と現在とを反復横跳びするような難しさもありましたね。丁寧に作られたドラマだと感じられたので、シーズン2も作ってほしいです!

※トップ画像はNetflixから引用いたしました。

ミヅチ

ホラー好きのネタバレブロガーです。ダークファンタジーもミステリも好きです。Netflixオリジナルドラマに首ったけです。

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