Netflix独占配信映画『新幹線大爆破』ネタバレ感想

Netflix映画『新幹線大爆破』アイキャッチ
この記事は約42分で読めます。
ミヅチ
ミヅチ

この映画の主役ははやぶさです。個人的にはかがやきが好きなのですが、見終わったらはやぶさも好きになっちゃいました!

新青森駅発東京行きのはやぶさ60号には、その日に見学会を行った高市車掌と参加した臺葉工大高校の修学旅行生たちと彼らを率いる教諭、若手の藤井車掌などが乗り込んでいます。

衆議院議員やその秘書、有名配信者、ある意味で有名な人――様々な人たちを乗せて、松本運転士がはやぶさ60号を出発させます。

ご意見承りセンターに犯行予告の電話がかかってきました。はやぶさ60号に時速100kmを下回ると爆発する爆弾を仕掛けたというのです。

同じ形の爆弾を仕掛けられた貨物列車が爆発し、警察や政府も動き始めました。そして、はやぶさ60号の乗務員たちにも爆弾のことが知らされます――。

スポンサーリンク

Netflix映画『新幹線大爆破』基本情報

Netflix映画『新幹線大爆破』は、1975年7月5日に公開されたパニック・サスペンス映画『新幹線大爆破』をリブートした作品です。

『シン・ゴジラ』や『シン・ウルトラマン』を手掛けた樋口真嗣監督はもちろん、シン・シリーズの代名詞 庵野秀明さんがプロップデザインで参加しています。

本物の新幹線や制服を用いた撮影や1/6スケールの車両を用いた特撮など、鉄道ファンにも特撮ファンにも楽しめるポイントがたくさんあります。

Netflix映画『新幹線大爆破』主なスタッフ

監督・絵コンテ樋口真嗣
脚本中川和博
大庭功睦
VFXスーパーバイザー佐藤敦紀
プロップデザイン庵野秀明

Netflix映画『新幹線大爆破』主なキャスト

高市 和也
はやぶさ60号の本務車掌
草彅剛
加賀美 裕子
スキャンダルが出た衆議院議員
尾野真千子
等々力 満
「ニートで大富豪」で有名な配信者
要潤
松本 千花
はやぶさ60号の運転士
のん
藤井 慶次
はやぶさ60号の便乗車掌
細田佳央太
林 広大
加賀美議員の秘書
黒田大輔
後藤 正義
ゴートゥーヘリサービスの社長
松尾諭
市川 さくら
臺葉工大高校の女性教諭
大後寿々花
小野寺 柚月
臺葉工大高校2年生の女子生徒
豊嶋花
笠置 雄一
新幹線の総括指令長
斎藤工

引用元:Netflix Japan | ネットフリックス(X)

ここから先はネタバレがあります!

スポンサーリンク

Netflix映画『新幹線大爆破』ネタバレと感想・考察

はやぶさ60号/5060B

東日本旅客鉄道株式会社
盛岡新幹線車両センター青森派出所

新幹線の車掌 高市が、青森新幹線 運転所にやってきた修学旅行の生徒たちを率いて見学会を行っています。一通りの説明を終えたあと、質問の時間が設けられました。

なぜ運転手でなく車掌を選んだのかと問われ、他人同士が同じ新幹線に乗る――それを見送るさみしさに魅力を感じたと語ります。

生徒たちを率いる女性教諭 市川は、元気いっぱいに動き回る10代を相手にせわしなく動いています。高市車掌は、それをほほえましく見守っていました。

青森県 青森市 新青森駅

この日、高市車掌は本務車掌として、後輩の若手車掌 藤井は便乗車掌として新幹線はやぶさ60号に乗り込みます。藤井車掌はなんだかはしゃいでいました。

15時17分発 はやぶさ60号 東京行きの車両が新青森駅の14番線に到着します。先ほど見学していた修学旅行の生徒たちも含め、多くの客が乗り込みました。

スキャンダルによって”ママ活先生”と呼ばれる女性議員 加賀美とその秘書 林、「ニートで大富豪」というチャンネルで有名な配信者 等々力も、はやぶさ60号に乗っています。

JR 東日本 新幹線総合指令所

輸送司令員 永野が出発進路構成を確認し、5060B――はやぶさ60号に出発の指示が出ました。駆け込み乗車の若者二人を乗せ、女性運転士 松本がはやぶさ60号を出発させます。

新青森駅は1986年に設置され、2010年に新幹線が通るようになった不遇な駅です。もちろん、前作が発表された1975年時点では存在しません。

原作となっている前作『新幹線大爆破』では、東京発博多行の新幹線ひかりが舞台でした。前作では東京から南に向かっていましたが、今回は北から東京に向かうんですね。

前作も見たのですが、昭和が舞台なので機材が古いのはもちろん、車内の公衆電話に乗客が集まったり、職場でタバコを吸う人がたくさんいたり、時代を感じて面白かったです。

最も毛色が違うなと感じたのは、やはり冒頭から「シン」の香りがするところです。前作は、犯人との攻防をメインに心情描写に重きを置いていました。

しかし、シン・シリーズ同様、リブート版は働く人々の使命感をひしひしと感じる作りになっています。これこれ! と思う方も多いでしょう。

そして何より強く感じるのは、鉄道オタクが作ったものだという感覚です。新幹線をこの角度で映したい! この風景の中を走っているところを収めたい! という熱を感じます。

ちなみに「本務車掌」「便乗車掌」という言葉がありましたが、本務の高市車掌ははやぶさ60号の車掌で――。

便乗の藤井車掌は途中の駅から出る別の新幹線に乗るために新幹線で移動している車掌だそうです。

スポンサーリンク

犯行予告

東日本旅客鉄道株式会社 本社ビル
JR 東日本ご意見承りセンター

東京本社にあるご意見承りセンターの女性職員 宮下のもとに、加工音声で犯行予告がかかってきました。犯人の声は即座に文字に変換され、画面上に映し出されます。

電話の主は、はやぶさ60号に時速100km以下になると爆発する爆弾を仕掛けたと告げました。そして、同型の爆弾を青ヱ森鉄道線 貨物2074にも仕掛けたと……。

宮下は手を上げ、上司を呼びます。すぐに青森東駅の運行管理課に連絡したものの、到着した貨物2074は電話をしている途中で爆発しました。

新幹線統括本部長 吉村と新幹線企画戦略部 福井が会議室へと急いでいます。警察とは合同捜査本部が開かれることとなりました。

JR 東日本 新幹線統括本部

吉村本部長は、109号事案を思い出しつつ、指令所の総括指令長 笠置に連絡します。七戸十和田あたりを走るはやぶさ60号を走らせ続けるよう指示するためです。

現場の多少の判断は任せると言われた笠置指令長は、はやぶさ60号を時速120kmで走らせつつ、北海道・東北新幹線は全線運転中止にすると告げます。

北陸・上越新幹線を大宮で折り返しにして、全列車を退避させることを選んだのです。スピーカーで吉村本部長からの連絡を聞いていた司令員たちは、皆すぐに安全確保へと動きました。

そして、当のはやぶさ60号に連絡が入ります。松本運転士は混乱して声を荒らげましたが、冷静に指示する笠置指令長に従いATCを開放し、速度を下げました。

ここまでの流れはほとんど前作と同じです。とはいえ、時代が昭和と令和なので、かなり状況が違いますね。

ご意見承りセンターはいわゆるコールセンターなので音声通話なのですが、相手の言葉はすぐに文字になり、画面上に表示されていました。

もちろん録音もされているのでしょうが、すぐに状況を共有できるシステムになっているんですね。

そして、前作では貨物列車が機関車で、坂道を上る際に減速することを予測して運転士ふたりが飛び降りるという緊迫した描写がありました。

そこまで貨物列車がクローズアップされたのは、前作の新幹線ひかり109号の運転士 青木が、もともと機関車の運転士だったことにあるのだと思います。

機関車ならばできたことが新幹線ではできない――その時代の移り変わりも描いていたのでしょう。

そんな前作の青木運転士は千葉真一さんです。リブート版の運転士はのんさんですが、犯行予告に驚き文句を言う性格は受け継いでいて面白いなと思いました。

そして重要なシステム”ATC”とは自動列車制御装置のことです。駅構内は時速75kmに落とすよう制御されることを避けるため、ATCを切ったわけです。

スポンサーリンク

八戸

笠置指令長から高市車掌へも連絡が入りました。八戸駅の通過に関しては運行上の問題とし、爆弾については伏せるよう告げられます。

青森県上北郡おいらせ町
東京まで612km

はやぶさ60号のアテンダント 二宮は修学旅行中の男子生徒 武井に絡まれていました。それを見たクラスメイトの女子 穂花、葵、紗奈は眉をひそめます。

武井は葵に告白しふられていたのです。それを知らなかった柚月は、女友達3人に話を聞いて驚き笑いました。そんな女子生徒たちを見て、市川教諭は安心したようです。

指令所では、副指令長を中心にダイヤグラムに線を引きながら新幹線を撤退させていました。そこに、捜査一課特殊班捜査係 川越警部補がやってきます。

犯人からの電話は吉村本部長のいる指令所に転送されることになり、指令所内に捜査本部も置かれました。そして、仙台までのルートが確保されました。

青森県八戸市
東京まで595km

八戸駅――スピードを保ったまま構内に進入するはやぶさ60号を避けるため、乗客は皆プラットホームから2階へと上っていきます。

はやぶさ60号が八戸駅を通過したあと、犯人が電話をかけてきました。爆弾解除料は1000億円、全日本国民に要求すると犯人は告げます。

吉村本部長が政府の判断をあおごうとしたとき、内閣総理大臣補佐官 佐々木が現れました。佐々木補佐官はテロリストとの交渉はしない、乗客に爆弾のことを伝えろと言い出します。

ダイヤグラムは鉄道オタクが持っているもの、見るのが好きなものとして、知ってはいるのですが……あんなに大きなものもあるんですね。

机いっぱいに広げられたダイヤグラムですが、ここはJR東日本です。これはJR東日本が管轄する新幹線だけの時刻表だということですよね……。

ダイヤグラムは横軸が時間、縦軸が距離とのことです。劇中では赤線が直角に近い角度で引かれているように見えたので、最寄り駅に停車させ乗客を降ろす描写だと思われます。

新幹線は普段、駅構内に時速75kmで進入するということですが……山手線は時速70kmほどで走るそうなので、普段の速度でも結構速いんですね。

そこを時速120kmで進入してくるとなると、身を屈めなければ危ないほどのものでしょう。この描写も、前作にはなかったものだと思います。

そして、総理補佐官が現れました。前作では一応政府も出てきたものの、物語は犯人・鉄道関係者・警察の三すくみが中心だったので、存在感は薄いものでした。

前作では主人公だった犯人が脇役となり、JR東日本が主役となったのがリブート版なんですね。

スポンサーリンク

1000億円

岩手県二戸市
東京まで573km

爆弾を公表するように指示され、藤井車掌は乗客がパニックに陥ることを恐れます。しかし高市車掌は、自分たちがパニックにならないことを重視するよう諭すのでした。

爆弾についてアナウンスすると、車掌室へと乗客が押し寄せました。安全点検について責められ、高市車掌も藤井車掌も頭を下げるしかありませんでした。

秘書 林は、加賀美議員にスキャンダル払拭のため前に出るよう勧めました。けれども、いきり立った乗客たちに「ママ活」「ど不倫」と言われ、加賀美議員は怒りを爆発させます。

高市車掌がなんとか客をなだめた頃、諏訪官房長官が会見で爆弾の件を公表していました。その会見で1000億円の件が伏せられたため、犯人は電話をかけてきます。

有名配信者 等々力がその会見を見ていると、急にタブレットの画面が切り替わりました。犯人と同じ加工音声が流れ、解除料金と共に爆弾を設置する映像が流れます。

青森派出所にて4号車2位台車に爆弾が設置されたのです。乗客たちにパニックが広がっていきました。沿線の住民たちはベランダに出てはやぶさ60号を見つめます。

そこで問題が起こります。はやぶさ60号――5060Bの進む先にある51号転轍器の上で、3032Bが起動不能になってしまったのです。

パンタグラフ下部碍子あたりに鳥がぶつかったことでショートしたようでした。運転再開には1時間かかるので、5060Bは下り車線を通るしかありません。

しかし下り車線には現在3027Bが走っています。上りを通れば故障中の3032Bに、下りを通れば3027Bと正面で――衝突してしまうのです。

「テロリストとは交渉しない」という姿勢がいつから始まったのかは分かりませんでしたが、テロが激化したのは1980年代以降なので、それよりあとだと考えられます。

前作は1975年公開のため、このルールは敷かれていません。ただ、テロとして描かれているようですが、今となっては無敵の人が暴れているように思えます。

前作では高度経済成長に置いていかれ生きる道を見失った人々が犯人として描かれており、警察はその心情をくみ取ろうとしながらも的外れなことをし続ける印象でした。

リブート版では、犯人は金を要求しながらも受け取る方法を指定せず、爆弾を仕掛けている場所を明かすような映像も流し、まったく心の内が読めない状態になっています。

犯人は誰かを考えるのは警察と政府の仕事で、JR東日本の仕事は別にあります。それは、前作では途中で諦めてしまった「乗客の安全を守ること」です。

前作は国鉄に協力してもらえませんでしたが、リブート版はJR東日本全面協力です。国鉄からJRに変わったこともありますが、この脚本や演出の影響もあると思います。

では、用語を調べていきましょう。”転轍器(てんてつき)”とは、列車を他のレール上に分岐させる装置のうち、レールを分ける装置のことを指します。

レールが重なっている場所の近くに大きなレバーが置かれていることがありますが、そこがまさに転轍器です。

そして”碍子(がいし)”とは、いわゆる絶縁体のことです。電車の場合、架線を通る電気をパンタグラフを通して電車の配線に伝えるとき、車体に電気が流れないようにしています。

碍子あたりに鳥がぶつかってショートしたということは、碍子を含む他の場所に当たったため流れるべきでないところに電気が流れた……ということでしょうか。

運転再開に1時間かかるほどの電気設備の不具合ですので、通常ならば乗客は降ろされ、別の新幹線で目的地付近に向かうことになるのでしょう。

スポンサーリンク

ポイント通過

3032B(はやぶさ32号)
東京行 上り車線停車中

3027B(はやぶさ・こまち27号)
新函館北斗・秋田行 下り本線走行中

5060B(はやぶさ60号)
東京行 上り本線走行中

盛岡通過まで、はやぶさ60号は5分30秒、はやぶさ・こまち27号は6分弱あります。笠置指令長は、手前にある63号転轍器ではやぶさ60号を下り本線に入れることを決断しました。

下りを走るはやぶさ・こまち27号に速度を上げて通過させ、その直後にはやぶさ60号を下りに入れるのです。そのためには、はやぶさ60号の速度を落とす必要がありました。

時速105kmに落とすよう指示され、はやぶさ60号の松本運転士は危険だと訴えます。それでもやるしかないと理解し、速度を落としました。

藤井車掌は息を荒げ、顔を真っ青にしています。高市車掌はその顔を乗客に見せないよう助言し、車両へと向かいました。姿勢を低くし頭を下げるよう伝えるためです。

はやぶさ・こまち27号は時速320km、はやぶさ60号は時速102kmになりました。盛岡駅の12番ホームでは乗客の退避が進められていますが、間に合いません。

駅構内に時速320kmのはやぶさ・こまち27号が入ってきました。乗客たちは勢いにおされ、皆ホームにしゃがみ込みます。盛岡駅からは駅通過が告げられました。

指令所では新幹線の居場所を示すランプを見て、笠置指令長が指示を出します。ふたつの新幹線は鼻先をこすり合わせながらすれ違いました。

はやぶさ60号は車体を大きく外に傾けながら下り線に入ります。急に速度を上げたこともあり、車内では荷物が落下し大騒ぎになっていました。

はやぶさ60号の走行に問題がないことが分かり、緊迫感が少しゆるみます。そんな中、有名配信者 等々力が藤井車掌ひとりの車掌室に顔を出しました。

時速100kmを切ると爆発すると言われているところを、時速105kmにしろだの102kmにしろだの言われたらキレたくなる気持ちも分かります。

松本運転士は若いので、ATCを切って運転するなんて初めてでしょうし、速度を定められるということもあまりなかったのだと思います。

そういう点では、機関車から新幹線の運転士になった前作の運転士と立場は似ているのかもしれません。

ちなみに、前作ではこういった新幹線同士のトラブルはありませんでした。そもそも運行本数が今よりずっと少なかったのだと思います。

あくまで犯人および仕掛けられた爆弾が肝であり、新幹線の運行そのものには支障がなかったのが前作の特徴でした。

つまりこのトラブルは、新幹線マニアの監督が作った”新幹線の見せ場”と言えるでしょう。入念に取材を行い、実際にできないことはやらない方針だそうなので……。

やろうと思えば、こういったこともできるんですね。指令所でマウスをクリックすると手動で転轍器が動くというのは、初めて知りました。

速度と距離の計算式は中学生で習います。とはいえ、それを暗算で素早く求め、計算と実際のスピードを照らし合わせながら一瞬をとらえるのは相当困難だと思います。

でも……できるんでしょうね、JR東日本には……。以前『100カメ』で地下鉄の運行を手動で行う様子を見たので、実感を持って「できるんだろうな」と思いました。

スポンサーリンク

後藤社長

高市車掌が車内の点検を行っていると、有名配信者 等々力がアナウンスをする声が聞こえてきました。藤井車掌が許したのだと気付き、高市車掌は引き返します。

等々力は集金サイトを立ち上げたため、乗客たちに情報を拡散するよう勧めました。修学旅行生たちを始め、乗客たちが皆SNSを通じて助けを求めます。

諏訪官房長官は政府方針と食い違う集金について問題視していると告げます。そんな中思い出されるのは、75年に起きたひかり109号事案です。

しかし109号事案は500万米ドルを要求し、実際に取りに来ました。その70倍になる1000億円を要求しながらも、方法を指定しない現在の事件とは差があります。

等々力はテレビの取材を受けます。また、乗客全員の命の値段は最低でも560億円だと等々力は語り、テロリストの要求に応じるなと言う加賀美議員を黙らせました。

岩手県北上市
東京まであと453km

金敵グッドラックという動画チャンネルを持つ若者 金本と島は、ライブ配信を始めます。ゴートゥーヘリサービスの後藤社長が乗客にいると知り、絡みに来たのです。

後藤社長が乗っていると知り、解除料を払わない人がいるというのです。二人に抑え込まれ、後藤社長はカメラの前で無理やり土下座させられました。

後藤社長は暴れ、駆けつけた高市車掌も突き飛ばします。新幹線から降りたいと騒ぐ後藤社長は、トイレから出てきた女子高生 柚月にSOSボタンを押すよう頼みました。

しかし、そのボタンを押してもはやぶさ60号は止まりません。高市車掌の持つ端末が鳴っただけです。それを見て、柚月はどこか不満げな顔をするのでした。

等々力はクラウドファンディングでお金を集めることにしたんですね。等々力自身がお金を持ち逃げするのは難しい状況なので、確かにいい方法だと思います。

政府はページの閉鎖要求も視野に入れていると言っていますが、それはサイトの管理者に強制できるものではないでしょう。

修学旅行中の高校生が乗っていることを知れば、集金に応じる人は少なくないと思われます。配信に携わる人も何人か乗っているため、拡散力は強そうです。

そんな中、109号事案とは何かが違うと感じる刑事たちの勘も納得できます。もちろん時代が違うのでまったく同じになるはずはないのですが……。

もし足が着くのを恐れているのならば「暗号資産で」「プリペイドカードで」など、受け取る方法を指定するはずです。

受け取り方の指定がされないことが、何より不穏なのです。集金の仕方が自由ならば、どうやって取りに来るつもりなのだという話になるわけですね。

そして「こんなやつは助けたくないから」という理由でお金を出し渋る人がいるという情報が出てきました。実際にそういう意見があったのかは分かりませんが……。

死者を出す事件を起こした会社の社長がいるから、爆弾の解除料を出したくない――それはつまり、社長を亡き者にせよという要求ですよね。よく言えたものです。

目的地に行くために乗っていて事件に巻き込まれた藤井車掌は可哀想ですが、それでもやっぱり、自分の担当する新幹線で事件が次々に起こる高市車掌の可哀想さには追いつかないです。

スポンサーリンク

救出作戦

若い藤井車掌は、後藤社長の命の価値を見失います。けれども高市車掌は一本気でした。後藤社長を含め、乗客の命はすべて安全にお届けすると語ります。

松本運転士を励ましに行った帰り、高市車掌を女子高生 柚月が呼び止めます。落とした名札を渡したあと、柚月は問いかけてきました。

「いないほうがいい」と思われる人を助ける気持ちはどんなものかと問われ、高市車掌は繰り返します。安心安全を守る仕事に就いている以上、助けるのは当然のことです。

指令所には、新幹線運輸車両部マネージャーが来ていました。そこで、はやぶさ60号の最後尾を切り離す作戦についての説明が始まりました。

本来、走行中に車両が切り離されるとブレーキがかかります。その装置を無効にする作業をするため、必要な工具をはやぶさ60号に渡さなければなりません。

別の新幹線を併走させて、走行中でも開ける乗務員室同士に滑車付きのロープを伝って工具を渡します。そうして最後尾の先頭車両を切り離すのです。

次に中間車両を先頭にした救援列車をはやぶさ60号に繋ぎ、乗客を移動させます。すべてを時速120kmで走行中に行わなければなりません。

岩手県一ノ関市
東京まであと410km

後藤社長が目を覚ましてすぐ、救出案が指令所から伝えられました。アナウンスを聞き、電気工事士の資格を持つ篠原が妻・和子に連れられて車掌室へと向かいます。

いないほうがいいと思われている人を助けることに意味はあるのか――。前作では、犯人たちは皆、命を落としています。

ひとりは逃走した果ての事故によって……ひとりは仲間を守るための自爆によって……そして最後のひとりは警察の発砲によって……。

彼らは爆弾が仕掛けられた新幹線の乗客たちはもちろん、その行く末を気にかけていた国民たちからも「いないほうがいい」と思われていたことでしょう。

彼らはその人生において救われることのないまま、一発逆転のために事件を起こし、そして死んでいきました。

一方で、新幹線の運行に携わる者の中には、その仕事をまっとうできなかったことを理由に職を辞する者が出ました。結果はどうあれ、信義に欠けた行動を取ったことが理由でした。

前作にあった哀しい結末は、国鉄からの協力を得られない理由になったり、キャスティングを断られる一端となったり……。

そんな前作では、救出作戦は出てきませんでした。なにせ爆弾を解除する方法が難しくないため、そこまで大がかりなことをする必要がなかったのです。

しかし、リブート版の爆弾はマグネットで台車の裏側につけられているため、走行中に取り外すのは不可能と考えられます。

爆弾を外せない以上、爆弾のついていない車両に人を移すしか策がないのです。そのために、連結の障害となる先頭車両を切り離すことが最優先事項となりました。

工具を渡すために新幹線を併走させるのは、前作でも行いました。しかし、前作では、爆弾を解除するための工具を渡しています。

爆弾は解除できないものとして進んでいくストーリーが、前作よりもスリリングな展開を生んでいるのが興味深いですね。

スポンサーリンク

切り離し

9012B(併走号)
E956型新幹線高速試験電車(ALFA-X)

はやぶさ60号の後ろにALFA-Xが見えてきました。切り離される予定の10号車グランクラスに乗っている乗客は、藤井車掌が前方車両へと導きます。

二つの新幹線の乗務員室が横並びになりました。ALFA-Xからガイドロープが投射され、固定されたロープからはやぶさ60号へと荷物が運び込まれていきます。

宮城県宮城郡利府町
新幹線総合車両センター(幹総)

無事に工具が運び込まれたため、技術者による切り離し作業を始めます。実際の車両で同時に作業しながら、映像を通じてはやぶさ60号の作業を確認します。

非常ブレーキを作動させないよう篠原が作業している間、他の乗客は救出車両への移動の準備を始めました。篠原と高市車掌は、車両連結の解除へと進みます。

篠原がジャンパ線を切り、高市車掌は車掌室でダンパーを切るのです。二人はそれぞれ車両の連結部に降りて、ケーブルやボルトを外しました。

そして最後に、解結器を力いっぱい回すことで8号車と9号車の連結が解除されました。線路上に取り残された9号車が爆発炎上します。

臨時列車9014B(救出号)

幹総より、元運転士の主務 福岡が運転する救出号が出発しました。仙台駅には取材陣が集まっており、はやぶさ60号を救出号が追いかける様を撮影しています。

繰り返しになりますが、リブート版では実際にできないことをドラマティックな演出のために行うという興覚めなことはしていません。

つまり、走行中に併走してものを渡すことも、走行中に列車を切り離すことも、やろうと思えばできるのです。もちろん、手順は複雑ですが……。

新幹線にはたくさんの安全装置がついているため、それをひとつずつ解除していく作業が必要なんですね。電気工事士の資格を持っている人がすべての新幹線に乗っていてほしいものです。

電車の連結って結構アナログなんだなと、連結部を通るときに感じてはいましたが……あれほどアナログなやり方で外すとは思いませんでした。

解結器――連結を解除する工具の大きいこと! 成人男性ふたりで力いっぱい動かしてやっと回るほどのものでした。

ところで非常ブレーキを止める作業はかなり詳しく描いている一方、途中で乗客の荷物整理シーンが挟まれていました。

あまりに詳しかったため、すべて見せてしまうことのないよう途中で遮る必要があったのではないか……と勘ぐってしまいました。

それでは用語に入りましょう。ジャンパ線は、離れた場所を接続するために使う端子のことでしょう。篠原は接続部分をすべて取り外していましたね。

そしてダンパーは、車体と車体の間に取り付けられているもので、乗り心地を向上させるために取り付けられています。

ざっくり言えば、8号車と9号車とを繋いでいるものをすべて取り外しているんですね。調べていたら苦手分野の話が延々出てきて大変でした……。

最後に、前作では結局、爆弾はひとつしか設置されていませんでした。しかしリブート版では、現時点で確認されただけで2個あります。とんでもないことです。

スポンサーリンク

救出号

救出号が近付いてきます。限界まで寄せた救出号からタラップが降ろされ、手すりロープが設置されました。ロープを張るためのパイプも立てられます。

救出号への移動が始まりました。乗客たちは強い風に耐えながら、歩いて救出号へと渡っていきます。加賀美議員や林秘書、配信者 等々力もその中にいました。

等々力の立ち上げた集金サイトには4000万円が集まります。しかしすべて順調というわけではありません。後藤社長は暴れており、女子高生 柚月の姿がないのです。

市川教諭ははやぶさ60号へと戻りました。加賀美議員がそれを追い、林秘書もついてきます。その姿を見て思わず立ち上がった等々力は、周りにはやし立てられました。

拍手で送り出されたため、等々力もはやぶさ60号へと戻ります。はやぶさ60号では、死にたがりの後藤社長が暴れるのを車掌ふたりが必死に止めていました。

加賀美議員は、世間から責められてやけになっている後藤社長を怒鳴りつけます。後藤社長はその勢いにおされ、励まされ、動きを止めました。

そのとき――はやぶさ60号ががくんと大きく揺れます。救出号のATCが働いたため、速度が急速に落ちていっているのです。

ふらついた後藤社長は手すりに頭を打ちつけ、意識を失いました。高市車掌は様子を見るために運転席へと急ぎ、藤井車掌にあとを任せます。

藤井車掌はうまく動けない後藤社長を支えながら連結部分へと急ぎます。しかし、不測の事態でタラップは半壊状態になり、渡れなくなっていました。

どんどん落ちていく速度を見た松本運転士は、とっさの判断で急ブレーキを踏みます。そして、はやぶさ60号と救出号は衝突するのでした。

はやぶさ60号に加賀美議員が乗っていたおかげで政府の批判が弱まったと褒められ……加賀美議員は諏訪官房長官を「ドロエビス」と呼びました。

加賀美議員はその能力ではなく、政府へのバッシングをやわらげたという”運の良さ”で評価されたのです。ひどい話だと思います。

しかしそれを素直に受け止めたからこそ、加賀美議員ははやぶさ60号に戻ったのだと思います。乗客がまだ残っているのならば、救出号に乗るべきではないと考えたのでしょう。

ひとりでも乗客を残して救出されれば、加賀美議員を含めて政府は激しくたたかれるでしょう。その考えをくんで、林秘書もついていったのだと思います。

救出号の騒ぎを見れば、後藤社長と柚月がいないことは誰にでも分かります。しかし、そこで「戻る」という決断ができるところは、やはり優秀な政治家なのだと思いました。

等々力は……この人は一体どんな生き方をしてきたのでしょうか。乗せられるがままに行動してしまうところは、憎めない部分でもあります。

人気商売をしている以上、求められることはしなければいけないと刷り込まれているのでしょうか。

市川教諭について言うと、初めから柚月のことを気にしている描写がありました。発作が起きる病気を持っているとのことで、それを気にしているのかもしれません。

けれども、発作が起きそうにない女子同士で歓談しているときでも目を配っていました。柚月には、病気のほかにも気にしなければいけないポイントがあるのでしょうか。

そういえば、柚月は何度もトイレに行っていました。1時間に2回程度は行っている計算になるでしょうか。トイレの回数が多いなと、見ていても思います。

こうして、はやぶさ60号には松本運転士、高市車掌、藤井車掌、後藤社長、柚月、市川教諭、加賀美議員、林秘書、等々力の9名が残ることになるわけですね……。

スポンサーリンク

残り9名

はやぶさ60号と救出号の中間車両同士がぶつかり、接続されていた部品がすべて外れました。後藤社長をとっさにかばった藤井車掌の背中に大きな部品が突き刺さります。

市川教諭が探していた女子高生 柚月は、トイレの中にしゃがみこんでいました。しかしもう、救出号へと運ぶことはできません。

無理やり救出号を切り離し、はやぶさ60号は時速120kmに戻りました。救出号も走行には問題なく、移動できた339名の乗客と客室乗務員1名は無事に助けられたのです。

佐々木補佐官ははやぶさ60号に残った9名を同じ方法で助けようと言いますが、即座に却下されました。そして、もし都市部で爆発した場合、甚大な被害が出ると想定されます。

犯人からの連絡はもう2時間届いていません。そして残り9名となった今、解決金のサイトも470億で停滞していました。

加賀美議員は、藤井車掌の手当てをしつつ冷静に語ります。東京駅まで走らせるという判断を政府が下すとは考えられません。

はやぶさ60号を強制的に止める手段はあるのかと柚月に問われ、あると高市車掌が答えます。すると、柚月は「親に電話する」とその場を離れました。

福島県伊達郡見町
東京まであと269km

東京まであと2時間半――高市車掌はある方法を思いつきます。政府がはやぶさ60号の爆破を検討し始めたと知り騒然とする指令所に、その方法が伝えられました。

電話を取った笠置指令長は、その案に乗ることを決めます。それは、東京駅にある現在はまだ繋がっていない5mの距離にある東北と東海道との線路を繋げるというものでした。

はやぶさ60号を救出号に繋げて乗員乗客を渡らせるという方法は、はやぶさ60号の中間車両が接続できる状況でなければ使えません。

はやぶさ60号の中間車両は急ブレーキによる衝突でぐちゃぐちゃになってしまったため、もう一度同じことをするのは難しいのです。

それに、東京駅で終点になってしまう東北新幹線に残された時間はあと2時間半――もう一度同じ方法を取るには、時間も足りませんでした。

救出号のATCが動いてしまった以上、救出号とはやぶさ60号が繋がったままでは速度が落ちて爆破してしまいます。

移動できた340名を無事に帰すため、そしてはやぶさ60号を爆破させないため……松本運転士の判断は最善だったと思います。

加賀美議員は後半になるに従って議員らしさが出てきました。政府は冷たい判断を下すときもあるのだと、よく分かっているのでしょう。

それでも諦めない姿勢を貫くところからは、この作品に出てくる政府関係者の中で最も「立場に見合った行動を取ろう」という意識が見えてかっこいいなと思いました。

前作では刑事と鉄道関係者とが衝突していましたが、リブート版では政府とJR東日本がもめています。政府出資の公共企業だった国鉄と、民営化されたJRとの差ですね。

スポンサーリンク

嘘つき

東北新幹線と東海道新幹線との線路を繋げるためには国土交通省の認可が必要です。指令所にいる佐々木補佐官は、司令員たちの熱意におされて動き始めました。

その頃――宮城郡利府町で爆発したはやぶさ60号の9~10号車についての報道を見ている人物に電話がかかってきました。

それは柚月の父親 勉でした。1975年に起きた109号事案の関係者である勉は、かつての事件の残党がはやぶさ60号にも関わっていると語り、全員始末すると息巻いています。

柚月は表情を変えず、勉にはできないと告げました。なぜなら――はやぶさ60号に爆弾を仕掛けたのは柚月だからです。

柚月は勉から、109号事案の犯人は自分が殺したのだという自慢を長年聞かされ続けてきたのです。言動を細かく監視され注意される生活の中、柚月は息苦しさを感じていました。

109号事案の犯人のひとり――古賀勝は自爆死したと柚月は知っています。警察の建前のためにでっちあげられた嘘で自分を飾り立てた父親に、柚月はうんざりしていました。

そんな吐き気をもよおす父 勉の部屋にも、柚月は爆弾を仕掛けていました。そして、勉が起動した爆弾に顔を近付けた瞬間、柚月は爆弾のスイッチを入れます。

小野寺家が周囲を巻き込む大爆発を起こした頃、柚月は満足げに微笑んでいました。そして他の8名がいる車両に戻り、電話をかけ始めます。

爆弾の解除方法を教える――そう語り始めた柚月に、皆の視線が集まります。電話を受けたのは指令所の川越警部補で、柚月の名乗りを聞いて驚きを隠せません。

柚月は父親を爆破し見たかったものを見るという目的を果たしたため、爆弾の解除方法を教えると告げます。それは、柚月の命を奪うことでした。

ここで前作が大きく取り上げられたこともあって、1975年版も見ようと決めました。古賀勝とはいかなる人物だったのか? と気になったためです。

古賀勝は109号事案の犯人のひとりです。そもそも犯人は3人おり、皆同じように高度経済成長期についていけずに仕事や家族を失っていました。

新幹線に矛先を向けた理由は、発展の象徴的存在だったからでしょう。そして古賀勝は過激派――武力で目的を果たそうとする発想を持つ人物でした。

犯人3人をテロリストと呼ぶとしても、その気質を持っているのは古賀勝ひとりです。あとの二人は、生きる道を見失った末に無敵の人になっただけでした。

警察のメンツを保つためでしょうか……すでに犯人を一人事故で死なせてしまっていた警察は、古賀勝が自爆したなど明かしたくなかったのでしょう。

そのために、古賀勝が自爆した現場にいた警察官 小野寺勉が”犯人を射殺した警察官”として担ぎ上げられたわけですね。

しかし、やってもいないことを栄光として背負わされた結果、小野寺勉は壊れてしまいました。そして、壊れた勉に育てられた柚月もゆがんでいってしまったのです。

嘘の栄光にすがって生きる”厳格”な父 勉よりも、仲間の逮捕を防ぐために自爆した古賀勝のほうが立派だと柚月は語ります。

柚月から見ればそうでしょう。けれども、私としては、勉は立派な警察官としてしか、古賀勝は過激派としてしか生きられず――どちらも同じ囚われの人生を送った被害者だと思いました。

スポンサーリンク

爆弾の解除方法

心臓病を患っている柚月の体内には、持病の合併症への備えとして小型の心臓モニターがあります。爆弾はその電波を受信しており、心臓が止まると爆弾も止まるのです。

柚月の発言を受け止めきれない川越警部補に、部下から報告が入ります。秦野市渋沢にある小野寺勉の家が爆発したとのことでした。

はやぶさ60号の8人にも動揺が広がっていました。柚月はそんな大人たちを眺めるためか、ひとり離れた場所に座ります。爆弾が止まるか確かめる方法はひとつしかないと告げて……。

東海道新幹線14番線ホーム
東北新幹線23番線ホーム

大宮新幹線保線技術センター副所長 新庄が作業員たちに指示を出し、作業が始まりました。路線延長をすれば、はやぶさ60号を鹿児島まで走らせることができるのです。

線路を繋ぐ作業は、ほぼすべてが手作業でした。間に合うかどうかは微妙なところです。それを知った後藤社長は、自分が柚月を手にかけると言い出しました。

それを聞いた有名配信者 等々力は独自の理論を語ります。ゴートゥーヘリサービスの事故によって8名の犠牲者を出した後藤社長が、乗員乗客8名を助けられれば”相殺できる”と言うのです。

人の命を数だけで見ている等々力に、加賀美議員の秘書 林は怒りをにじませます。つかみ合いが始まったため、加賀美議員や高市車掌が止めに入りました。

そんな大人たちを見て楽しそうに笑う柚月を見て、市川教諭は恐怖を感じます。同じ頃、刑事たちは柚月の母親が9年前に病死していることをつかみました。

その頃から、柚月は近所に響くほどの声で怒鳴られてきたのです。そして、109号事案の栄光を着せられた勉は、周囲にその功績を言いふらすようになっていました。

母親が死んでから勉の行動は変わったようですが、その考え方がいつから変化したのかは分かりません。

柚月が虐待を受けてきた期間についても、詳しくは分かりません。しかし柚月は高校2年生ですので、9年前というと7歳くらいです。

7歳から16歳まで怒鳴られ続けたとなれば、その心の傷は深いものでしょう。周囲の人々が助けてくれないというところも、失望するポイントになったのだと思います。

モニターを体内に埋め込むほどに重い心臓病を患っている子どもに対し、理不尽なことで怒鳴りつけるというのは正気の人間ができることではないでしょう。

勉が怒鳴り声を上げ始めた当時に通報されていたら、柚月は勉と離れて心穏やかに生きていけたのかもしれません。

柚月は、人間など一枚めくれば獣だと分かっているのです。だからこそ、極限状態に置かれて醜く争う大人たちを見て、本性はこれだとあざけり笑っているわけです。

自分がそうするに至るだけの理由さえあれば、未成年の命を踏みにじることもできるのだろうと問いかけているんですね。

ちなみに小野寺勉は「今の新幹線があるのは自分のおかげ」などと言っていますが、前作で新幹線が爆破されずに済んだのは鉄道関係者たちが努力を重ねた結果です。

結局のところ、警察ができたことは犯人3人の命を奪い、解除料を回収することだけでした。爆弾の対処については、どちらかといえば足を引っ張っていました。

今の新幹線があるのは誰のおかげかと言えば、爆弾を解除するために創意工夫し、危険なことも実行して、最終的に賭けに勝った鉄道関係者なのです。

スポンサーリンク

もう一人

心臓モニターとの連動アプリからの信号を起爆装置と繋げることは技術的に可能だと、科捜研が結論を出します。柚月が心臓モニターを埋め込まれていることも事実だと確認できました。

しかし、川越警部補は納得できません。女子高生の柚月が爆弾を作り起爆装置まで設置するなどあり得ないと考えていたのです。

警察が協力者を捜し始めた頃、市川教諭は柚月との対話を試みていました。柚月に寄り添う姿勢を見せる市川教諭に、柚月は問いかけます。

柚月が虐待されていると知って、市川教諭はいつも気にかけていました。しかしただ見守るだけで、実際に行動することはありませんでした。

これは、ただ自分が安心したいという理由で、柚月に”普通”を強いてきた周囲への復讐なのです。そんな柚月の心情は、SNSのアカウントに表されていました。

そんな柚月に接触を図り、爆弾について教えているアカウントがありました。埼玉に住む大英興業で発破技師をしている50代男性――古賀勝利でした。

福島県二本松市
東京まであと231km

力なく座り込む市川教諭を気にかける間もなく、藤井車掌の体から大量の血がこぼれ落ちます。高市車掌は柚月を説得しようと、低姿勢で頼み込みました。

乗員乗客の安全を守るのが仕事なら――その仕事のために自分を手にかけろと、柚月は迫ります。高市車掌があせっているとき、指令所にも動揺が広がっていました。

国土交通省が線路の延長を許さなかったのです。佐々木補佐官は力が及ばなかったことに対し、深く頭を下げることしかできませんでした。

やはり柚月の恨みは人々すべてに向いているようでした。9年間もの長きに渡って誰も自分を助けようとはせず、それでいて見守ってはいるという環境が故でしょう。

何も気付かれないことや、無視をされているほうがマシかもしれません。「何もしていないわけじゃない」というやわらかな拒絶が、柚月を苦しめたのです。

そんな柚月の苦しみに気付いた相手が、最悪なことに、古賀勝と同じく過激な思想を持つ古賀勝利だったんですね。

前作にて、古賀勝の妻や子についてはっきりとは描かれていませんでした。兄と兄嫁は出てきていましたが、あまり連絡を取っていないようでした。

父の名前が「勝」で息子の名前が「勝利」というのは、ちょっと考えにくい名付け方ですよね。もしかしたら、父とは会ったことのない子なのでしょうか……。

それはさておき、息子の勝利は父が何をしたかも、父の自爆についても、警察がそれを隠していることもすべて知っているようですね。

父が自爆したことを誇っているのだとすれば、それを伏せてきた警察は敵でしょう。その敵に殺意を抱いている柚月は、共感できる仲間です。

もちろん、勝利が50代で柚月が未成年であることを鑑みれば、その関係性が対等でないことは明白です。勝利が主犯、柚月は操られた実行犯というのが落としどころでしょう。

そんな中、線路の延長が却下され、東京が終点となることが決定しました。決定を下せる人物がいない指令所には、悔しさが広がっていきます。

スポンサーリンク

正義の政治

笠置指令長から高市車掌へと、工事の許可が下りなかったことが知らされました。電話を切った高市車掌は、決意をにじませて柚月へと近付いていきます。

柚月はゆっくりと首のリボンを外し、シャツのボタンを開けて首を出しました。目を閉じた柚月の首へと、高市車掌の両手が伸びていきます。

柚月の首を絞めた――かと思いきや、高市車掌は柚月を抱きしめます。柚月は、生きていても仕方がないと声を震わせるのでした。

父 勉から生まれてきたことすら否定された柚月を、古賀勝利は哀れみます。父 古賀勝の名誉を汚した小野寺勉を恨んでいたのだろうと問われ、勝利は答えます。

新幹線を狙ったのは柚月でした。その理由は柚月の父 勉が誇りに思うもの――象徴が新幹線だったためです。

川越警部補の聴取により、爆弾が仕掛けられたのは1号車、4号車、6号車だと分かりました。今のはやぶさ60号は、8号車までが繋がっています。

政府からはやぶさ60号を強制停止の命令が下り、そのゼロ地点が大宮と決まりました。笠置指令長は、モニターを辿って自分の計画が実行できる地点を探します。

指令員たちは模型を使い、笠置指令長の計画を諏訪官房長官とはやぶさ60号とに伝えます。それは、はやぶさ60号を走らせながら切り離すというものでした。

鷲宮保守基地への分岐線を使った方法です。まず、上り線を走るはやぶさ60号の1号車から6号車を下り線に移動させ、ポイントを操作することで7号車は上下線をまたいだ状態にさせます。

8号車は上り線を走り続け、その先に鷲宮の分岐線が現れます。その分岐点でポイント操作することで、上下線をまたぐ7号車と6号車との連結が壊れるのです。

爆弾を積んだ1号車から6号車までは鷲宮へと向かう線路の途中で速度を落として爆発します。そして、残された7号車と8号車は東京へ向かう線路上をすべり続け、いずれ止まるのです。

この作品は人間ドラマに課題があると言われていますが、その引っかかりを一番感じた部分はここかもしれません。

柚月の動機について納得がいかないという切り口もありますが、思春期の自分がどれほど荒唐無稽なことを考えていたかを忘れてしまった大人の話は聞かないことにします。

犯人を女性にすることも問題視されていました。その点については、犯人を10代の女性にすることで、被害者でありながら加害者でもあるという二面性を描くためかなと思います。

いまだに「男の子じゃない」という理由で大切にされない女の子は存在します。その痛みを理解できない男性から見ると、現実感のない感情に見えるのかもしれません。

とは言っても、ほんの数時間前に出会ったアラフィフ男性に抱きしめられて決壊するというのは、まあ……共感しにくいシーンではあります。

10代女子に「よく知らないアラフィフ男性から急に抱きしめられたらどう思うか」と尋ねたら、十中八九「気持ち悪い」と返ってくるでしょう。

柚月が助けを求める子どもの自分を解放する瞬間を描きたい気持ちは分かるのですが、きっかけがそれはどうかな……と思ってしまいました。

しかし興ざめというほどのひどいシーンではなかったので、違和感は覚えつつも先には進みます。

ついにリブート版の最も見ごたえのあるシーンがやってきますね! 鉄道オタクでなければ描こうとすら思わないような描写を見られます。

模型で説明されてもうまく理解できない……という方もいるようですが、簡単に言ってしまえば、二つの分岐点を使えば連結された車両をぶった切れるということです。

スポンサーリンク

鷲宮へ

車両ひとつは25m、時速100kmで通過すると、ひとつ目のポイントの切り替えには1秒未満の猶予しかありません。さらに、ふたつ目のポイントの切り替えはその場で人力で行うのです。

諏訪官房長官に確認され、高市車掌は乗客たちに意思の確認を行います。それを受けて、諏訪官房長官は高市車掌の計画に乗ることを決めました。

栃木県那須塩原市
東京まであと160km

高市車掌は、運転室にいる松本運転士へと事情説明をしに向かいます。その間、8号車両の乗客たちは置いていかれた荷物などを緩衝材にしてバリケードを作り始めました。

高市車掌は、マスターコントローラーを握りしめ続けて固まってしまった松本運転士の指をはがします。松本運転士は帽子を運転席に置き、時速が120kmであることを確認して席を離れました。

埼玉県 鷲宮信号場高架下

鷲宮のポイントに消防車が集まり、救護所が設置されます。株木建設による緩衝用丸型クッションドラムの搬入と設置も始まりました。

東京行の線路上に、3ブロックに分けてクッションドラムの壁が作られます。はやぶさ60号では初めて乗客たちと松本運転士が顔を合わせていました。

宮城県仙台市 仙台東部道路を走るバスには、臺葉工大高校の生徒たちが乗っています。葵は、柚月の無事を願って目に涙を浮かべて中継映像を見守っていました。

指令所の皆さんの計算能力の高さに驚くばかりです。しかし、速度と距離の計算は指令所に勤めるのならばできて当然のことなんだろうな……とも思いました。

どんな仕事にもトラブルは付き物です。交通機関であれば、そのトラブルにはどうしても人命が付きまといます。

その責任を感じながら皆さん毎日働いているのでしょう。世界一安全ともいわれる新幹線の運行には、数字に強く臨機応変に対処できる人々が関わっているんですね。

そして、消防や救急だけでなく、民間企業も関わっているというのがいいですね。前作ではそういう描写はなかったように思います。

柚月の心の動きには違和感を覚えたものの、柚月のために涙を流す葵については特になんとも思いませんでした。

たとえ柚月が犯人だと分かっていたとしても、葵は柚月を心配したと思います。実際に目の前に現れたら怒鳴りつけるかもしれませんが、それができる状況になってほしいとは思うはずです。

女の友情は軽く見られがちですが、こういう状況の場合は男子より強いかもしれません。細かいことは取っ払って「だって友達だから」で心配モードに入れるんですよね。

妙にリアルだなと思うのは、市川教諭のことは脇に置いていることです。もしかしたら市川教諭の本質は女子たちにバレバレだったのかもしれません。

スポンサーリンク

作戦実行

茨城県古河市
東京まであと62km

鷲宮保守基地51号転てつ器には、大宮新幹線保線技術センターの転換作業員が集まっていました。新幹線の衝撃に耐えるための壁を作り、作業の確認をします。

はやぶさ60号の8号車ではバリケードを作り終え、中央を向いた座席にそれぞれの体をくくりつけていました。有名配信者 等々力は発見した酒をあおり、加賀美議員と後藤社長もそれに続きます。

ひとつ目のポイントが迫っていました。指令所では指令員がマウスを握り、笠置指令長がストップウォッチを読み上げてカウントダウンします。

指令所のマウスがクリックされることで、52号ポイントが操作され、7号車が上下線をまたいだまま横滑りを始めました。

そのすぐあと、笠置指令長は現場の作業員に51号ポイントを切り替えさせます。はやぶさ60号は大きく揺れ、7号車は横倒しになりながら東京方面へと滑っていきました。

7号車から離れて鷲宮へと向かった1号車から6号車は、ゆるいカーブの上で時速100kmを下回り次々に爆発します。その車体は田んぼの中へと落下していきました。

線路をふさぐように横になった7号車を突き破り、8号車はまっすぐ進みます。その先にはクッションドラムの壁がありました。

ひとつ、ふたつ……クッションドラムの壁を破るたびに速度は下がり、みっつ目のクッションドラムを破ったところで8号車は停止しました。

レスキュー隊員は指令所に中継されたカメラを構えつつ、8号車の中に入っていきます。しかし電波が悪く、映像も音声も途切れ途切れです。

ここに1/6スケールで撮影されたシーンが詰まっていますね! XのNetflixアカウントで撮影時の写真が投稿されていたのを見たのですが、結構大きくて驚きました。

そもそも1/6スケールの新幹線なんて見たことがありません。トミカが1/64スケールとのことで、それを基準に考えれば分かっていただけるでしょうか。

もちろん人間ドラマ、信念を持って働く人々のドラマではあるんですが、やっぱり主役は新幹線だなあと感じるシーンが続きましたね。

前作では結局新幹線を爆破させることは叶わなかったわけですが、リブート版では二度の切り離し時に二度とも爆破させています。

『新幹線大爆破』のタイトルに恥じないド派手な爆発だったと思います。爆発して落ちていく新幹線を見ると、どこかグッとくるものがありました。

実際の車両を見られない状況でマウスをクリックするのも怖いですが、その地点にいて火花を浴びながらポイント操作するのはもっと怖かったでしょうね……。

今後、速度を出す計算式を覚える必要がどこにあるんだと問われたら、リブート版『新幹線大爆破』を見ろと返したいと思います。

個人的に興奮したのは、新幹線の腹を突き破って出てくる新幹線でしょうか。この作品でないと見られない光景だと思うので、何度も見返したくなるシーンです。

スポンサーリンク

仕事人たちの夜

乗員乗客9名の生存確認ができたことが伝わりました。指令員皆が安堵した直後、笠置指令長は待機させている車両の運転再開を指示します。

8号車がある大宮・小山間、9・10号車がある仙台・古川間のみを運休として、再び新幹線を走らせる作業を始めるのです。指令員たちはすぐに席に戻りました。

藤井車掌はすぐに搬送され、柚月は川越警部補の乗る救急車に乗せられます。古賀勝利に利用されたのだと語る川越警部補に、柚月は冷たい態度で応じました。

そんな柚月に、川越警部補が有名配信者 等々力の設置した集金サイトを見せます。340名が救助された時点で470億円だった集金額は、現在1000億円に到達していました。

世の中捨てたもんじゃないだろうと言われ、柚月はふっと頬を緩ませます。そんな柚月を、高市車掌が心配そうに見つめていました。

他の乗客たちは、皆自分で歩くことができる状態でした。松本運転士と高市車掌には、食べたがっていたチーズバーガーとアップルパイが届けられます。

近隣住民にも被害はなく、9人の乗員乗客を救った二人は拍手で出迎えられました。夜の闇の中、煌々と照らされたライトの中で作業が進んでいきます。

運行再開に当たっての行動がものすごく早くて驚きました。おそらく笠置指令長は並行して運行再開時のことも考えていたのでしょう。

前作の倉持運転指令長は、爆弾をひとつ解除したあと、他に爆弾がないか詳しく調べる間もないまま強制停止するしかありませんでした。

結局、他に爆弾はなかったため乗員乗客は無事でした。しかし、もし爆弾が他にもあったら……指令長は、信念を捨て乗員乗客を切り捨てた自分を許せませんでした。

さらに、警察の手で倉持運転指令長は利用しつくされます。せめて、という願いすら叶えられず、自分にも周りにも失望して国鉄を去ることを決めていました。

そんな前作の指令長とは違い、政府の決定が下ったあとでも笠置指令長は諦めませんでした。定められた限界までになんとかできないかと考え続けたのです。

前作とリブート版との違いはたくさんありますが、人間ドラマとしての最も大きな違いは、絶望したまま終幕を迎える人がいなかった点でしょう。

前作では新幹線に乗っていた臨月の女性が流産してしまったため、被害者ゼロとは言えませんでした。リブート版でそのポジションだったのは藤井車掌でしょう。

高市車掌の薫陶によって車掌としての意識を持った藤井車掌が、皆から恨まれる後藤社長をかばったことで大けがをしたのです。

乗客ではなく乗務員が、その使命によって命の危機を迎える――この焼き直しはなかなかいいなと思いました。

アイテムとしてまったく違う役割を与えられたのは解除料ですね。前作では新しい人生を始めるための資金でしたが、リブート版では人間不信の柚月が国民を試すためのものでした。

顔も知らぬ誰かが、たった9人の命のために合計530億円を差し出したのです。これによって「誰も何もしてくれなかった」という柚月の意識は覆されることでしょう。

スポンサーリンク

Netflix映画『新幹線大爆破』まとめ

予告の時点で感じていましたが、やはりこの作品は鉄道オタクが作った映画でした。主役は新幹線と言っても差し障りはないと思います。

この作品は、1975年公開の映画『新幹線大爆破』のリブート版として作られています。もちろん前作を意識して作っているシーンはありますし、リスペクトを感じる部分もありました。

それでも見終わって感じるのは「タイトルに沿っているのはリブート版」ということです。もしかして、前作を見て「えっ?」となったのでしょうか……。

リブート版だけを見ても楽しめますが、前作から続いているストーリーなので1975年版も見てほしいなと思います。

時代が違うと技術も違い、景色も違い、考え方も違い、働き方も違います。それでも、信念を持って仕事をする人々はどの時代にもいるのだと感じられて感慨深かったためです。

できることならば1/6スケールを展示してほしいなと思いました。指令所のセットも見せてほしいです。8号車のセットも見たいです。

新幹線のあんな姿もこんな姿も見られる唯一無二の作品なので、少しでも新幹線に興味がある方には見ていただきたいなと思いました!

※トップ画像はNetflixから引用いたしました。

ミヅチ

ホラー好きのネタバレブロガーです。ダークファンタジーもミステリも好きです。Netflixオリジナルドラマに首ったけです。

ミヅチをフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました